第2回「たとえ私が罪に問われても」覚悟した院長 母子の悲劇知るからこそ

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 「彼女の決意は固い」。慈恵病院(熊本市)の蓮田健院長(55)は、一人退院した女性の姿を見て、こんな思いを強くしていた。病院で出産し、退院するまで内密出産の意思が変わらなかった女性は、今回が初めてだった。

【連載】「この子を守るために 内密出産が問うもの」

熊本市の慈恵病院は2月4日、匿名を希望して出産した女性の赤ちゃんについて、国内初の「内密出産」の手続きに入る考えを明らかにしました。予期せぬ妊娠をし、やむなく孤立したまま出産に至る女性や子の命を守るにはなにが必要なのか、考えます。

 胎動を感じる日々を経て、おなかをいためて産んだ赤ちゃんと別れるつらさは、産婦人科医として容易に想像がつく。それでも、赤ちゃんを残して病院を去った女性の決意は揺らがないと思った。

 「内密出産の第1例になる可能性が高い」。覚悟を固める一方で、入院中に赤ちゃんに示していた愛情の強さを考慮すれば、翻意する可能性もゼロではない。二つの可能性を胸に描きつつ、1月4日の記者会見で1カ月をめどに最終的な意思確認をするとの意向を示した。退院して1カ月を過ぎれば翻意はないとの経験則と、それ以上、結論を出さないまま赤ちゃんが無戸籍の状態でいるのは望ましくないとの考えがあった。

 蓮田院長は、予期せぬ妊娠の末に出産し、悩みを深めているように映る女性と向き合う中で、「内密出産が必要」との思いを一層強くしていた。

 病院は2007年から、親が育てられない子どもを匿名で預かる「こうのとりのゆりかご」(赤ちゃんポスト)を全国で唯一運営してきた。ゆりかごの開設後も、全国では、赤ちゃんの遺棄や殺人といった悲惨な事件が後を絶たない。「なぜ、事件になる前にゆりかごに預けなかったのか」。思いを巡らせる中で、昨年から赤ちゃんの遺棄や殺人の罪に問われた被告との面会を重ねる活動を本格化させた。思い知らされたのは、厳しい家庭環境などを背景に悩み苦しみ、やむなく孤立出産に至る女性の存在だった。

 どうしたら悲劇を回避できる…

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