胃ろうやたんの吸引といった医療的ケアが日常的に必要な子ども「医療的ケア児」とその家族を支える取り組みが、東京都内の自治体で広がっている。新年度予算案でも新たなサービスや拡充策などが盛り込まれている。

 世田谷区が昨夏、区独自に立ち上げた「医療的ケア相談支援センターHi・na・ta(ひなた)」では、ワンストップの相談対応を担う。病院退院後の在宅生活支援プランの作成や、医療的ケア児らが利用する施設への技術支援など、地域で安心して暮らせるよう支える。新年度から開所日を週2日から4日に増やす。

 2019年度に始めた放課後デイサービスなど、障害児通所施設への受け入れ補助を拡充。保護者が働く時間に配慮し、午後6時以降も預かる施設への補助を追加する。ケア児が通う施設は制度開始から倍以上に増え、11カ所となる見込み。一部で午後6時以降の受け入れを始める予定という。こうした取り組みに、新年度予算案に約4億6千万円を計上した。

 区は19年度からふるさと納税による寄付を呼びかけ、これまで3千万円以上が寄せられた。ケア児のいる家庭を応援する団体への活動支援に充ててきた。新年度は対象世帯に医療機器用のポータブル電源などを配る目的で寄付を募る。

 国立成育医療研究センターが所在することもあり、区内には約180人のケア児がいるという。区障害保健福祉課の宮川善章課長は「ケア児のいる家庭が多い自治体なので、居場所の確保や家族の離職防止に取り組み、子育てが継続していけるよう、支えたい」と話す。

 荒川区は、ホームヘルパーの派遣や相談窓口開設などのため、関連費約2400万円を新年度予算案に盛り込んだ。

 ケア児にきょうだいがいる家庭には、利用者負担なしでホームヘルパーを派遣する。保護者の家事負担を軽減し、保護者ときょうだいが触れ合う時間を確保してもらう狙いだ。週2回、1回3時間以内の利用を想定する。また、「地域コーディネーター」を1人配置し、オンラインなどで幅広く相談を受け付け、きめ細かな支援につなげていく。

 中央区は新年度から、訪問看護師を特別支援学校に派遣する。これまで自宅への派遣だったが、対象を拡大する。学校での付き添いなど、保護者の負担軽減が目的という。

 杉並区は、区立済美養護学校に通うケア児がスクールバスを利用できるようにする。そのために看護師を派遣し、同乗させる。

 16年度以降、区立保育園の指定園や、同養護学校に看護師を派遣して受け入れ先を広げてきた。新年度は一般の区立学校の一部と、区立学童クラブ1カ所で試験的に受け入れを始める方針だ。

 また、区はケア児の家族や支援者への実態調査を実施。ニーズを把握し、相談体制の充実につなげる。田中良区長は予算案の記者会見で、「医療的ケア児の受け入れは、お子さんの命を預かるということ。非常にデリケートで責任も重い。簡単ではないが、挑戦していくことが求められている」と語った。(井上恵一朗、本多由佳、武部真明)

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 〈医療的ケア児〉 医療の進歩で新生児の死亡率が下がった一方、救命後に人工呼吸器の使用や経管栄養、たんの吸引などの「医療的ケア」が欠かせなくなる子どもが増えている。厚生労働省によると、全国に推計2万人いる。医師や看護師などの有資格者か保護者でないと医療的ケアは行えず、保育園に入れなかったり、保護者が学校に付き添うよう求められたりしてきた。昨年、ケア児とその家族への支援拡充を、国や自治体の「責務」とした医療的ケア児支援法が施行された。