第7回ネットの中傷対策、法規制は表現の自由を害するか 憲法学者の見方は

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曽我部真裕・京大教授

 ネット上の誹謗(ひぼう)中傷がますます問題となる中、書き込んだ人に損害賠償を求めるための情報開示や投稿の削除をソーシャルメディアなどに求める動きが広がっている。時間や手間もかかる現状の手続きを簡素化しようと「プロバイダ責任制限法」の改正が昨年決まったが、なお課題は残る。法改正の方向性をまとめた総務省の有識者会議「発信者情報開示の在り方に関する研究会」の座長を務めた京都大学法科大学院の曽我部真裕教授(憲法・情報法)に聞いた。

 ――誹謗中傷対策を求める声がここ数年、急速に高まり、発信者情報の開示を求める動きも急増しています。

 コロナ禍で世の中が荒れている中、日本でもネットを使う時間が増えたと言われています。2020年5月には、SNS上で多くの誹謗中傷を受けた末にプロレスラー木村花さんが命を絶ちました。著名な人も発信者情報開示請求をする例が増える中、制度が周知されたというのもあるかもしれません。

 ――開示請求の手続きの簡素化などが盛り込まれた改正プロバイダ責任制限法(プロ責法)が今年秋までに施行されることになりました。これで被害回復は進むのでしょうか。

 そもそも、開示請求は救済手段としては限界があるという議論があります。被害の数が多い場合、全てに開示請求をするわけにもいかず、手続きが簡易になっても追いつきません。それでも開示請求が簡易迅速になればいいということで、法改正を目指しました。

 他方で、開示請求の乱用への懸念もあります。これは杞憂(きゆう)ではなく現実にあり、公共性のある表現が抑圧されかねず、匿名で公共的な発言ができなくなる可能性もあります。このため研究会でも、ただ簡易迅速にすればいいという話にはなりませんでした。

 そうした乱用的な請求をブロックする仕組みは、本当の被害者にはハードルになります。非常に様々なケースを一つの基準で手続きしなければならず、一方を重視すると他方が困る状況になるという難しさがあります。

ツイッター社がひどいことを書いた人を代弁?

 ――どうすればよいのでしょうか。

 他の救済手段ももっと充実さ…

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