傑作に「背く」勇気 スピルバーグ氏、ウェスト・サイドを大いに語る

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ニューヨーク=中井大助
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 1957年にミュージカルが初演され、61年の映画も世界的にヒットした名作をスティーブン・スピルバーグ監督が新たに映画化した「ウエスト・サイド・ストーリー」が11日から、日本で劇場公開される。米国での劇場公開を前に、スピルバーグ監督が朝日新聞など日本メディアの共同インタビューに応じた。(ニューヨーク=中井大助

 ――映画の予告編で「This is our place(これが私たちの場所)」「This is our time(今が私たちの時)」という言葉が壁に書かれています。ウエスト・サイド・ストーリーを現在公開することに、どういう意味合いを込めているのですか

 「予告編で登場する言葉は、キャストが実際に話すわけではありません。ただ、今の時代の映画であることを伝えるために(映画会社の)ディズニーと20世紀スタジオが考えました。映画の舞台は1957年ですが、今日的な価値があまりにもあります。言い換えれば、二つのグループがそれぞれに場所を求め、そこには自分たちの場所しかないと訴えているなかでの争いなのです」

 「ウエスト・サイド・ストーリーの創作者たちにとって、『There’s a Place(作品中で歌われる『サムウェア』)』という曲は単にマリアとトニーの嘆きだけでなく、この国に移り住んできたプエルトリコの人たちの気持ちを表す意味がありました。そして、白人移民2世であり、3世であるジェッツもこの土地は自分たちのものであると主張し、ニューヨークのこの場所を、プエルトリコからの移民と共有したくありませんでした。なので、それぞれのグループがお互いについてどう思うのか、スローガンのように表現をしたのです」

61年版は「ハイブリッド」

 ――1961年の映画と比べて、社会の分断や人種間の対立の描き方はより現実的で、悲劇もより強く感じられました。この物語を再び見せるにあたって、どのようなことを重視しましたか

 「私にとってすごく大切だったのは、舞台を映画化するのではなく、ストリートミュージカルとすることでした。物語をニューヨークの道に出すことで、脚本家のトニー・クシュナーにとって、より現実的な役を作り出す機会となりました。本当の人生の物語、本当の苦しみ、本当の恋愛を描いています。そして、双方がそれぞれに対して抱いている、本当の問題を捉えています」

 「また、映画の利点を使って現実的な映画として描くチャンスでした。61年の映画は素晴らしいですが、ハイブリッド型の映画です。現実的な映画でありながら、舞台のセットが背景となっています。彼らは舞台と映画の双方の一番いい要素を組み合わせたハイブリッドを作っていたので、我々のウエスト・サイド・ストーリーは全て映画としたかったのです」

 ――61年の映画をどのようにとらえていますか

 「同じ素材を原作とした映画です。どちらも、レナード・バーンスタインと、スティーブン・ソンドハイムによる、演劇史上最高ランクのスコアを元にしています。私にとっては、バーンスタインが作曲した最高の楽曲です。そして、メロディーと歌詞が不朽の内容なので、すべての世代に伝わります」

 「ウエスト・サイド・ストーリーは、世界中で何千回も上演されています。高校や大学や地域の劇場だけでなく、プロフェッショナルの公演もリバイバルもあります。そして、新しいキャストのたびに、新しい解釈が生まれています。だからこそ、多くの人がハリウッドの傑作だと思う映画に背き、この有意義な物語を60年後に再び、世界中の人に伝えることを正当化する勇気を得ることができました」

「正しい多様性」のための条件

 ――61年の映画では、プエルトリコ出身の役の大半は濃いメイクを使った白人が演じています。その判断をどうみますか

記事の後半では、スピルバーグ監督が映画を作る上で課した条件や、印象に残るシーン、撮影中に思わず涙した瞬間など、さらに語ります。

 「以前の時代に戻って、当時…

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