第1回オミクロン株発見の瞬間 科学者が気付いた遺伝子のドロップアウト
ほんの小さな気づきが、やがて世界を駆け巡ることになる。2021年末から世界各地で急速に広まった新型コロナウイルスのオミクロン株。世界に先駆けて発見した南アフリカの科学者たちが、朝日新聞の取材に答えた。発見のきっかけはなんだったのか。発表までにどのような経緯をたどったのか。未知の変異株と向き合った日々を振り返る。
2021年10月下旬の土曜日。最大都市ヨハネスブルクのソウェト地区にある公園は、バーベキューをする家族連れでにぎわっていた。香辛料をいっぱいまぶした肉の焼ける匂いが広がり、子どもたちが芝生の上を走り回る。公園を見渡すと、人々の半数以上はマスクをつけていない。新型コロナ感染への警戒心は感じられなかった。
南アフリカでは6~8月に猛威を奮ったデルタ株による感染の波が9月になってようやく収まった。政府は10月1日以降、それまで平日の午前10時~午後6時だけに限っていた酒の小売り販売規制も、深夜をのぞいて緩和した。
10月下旬には1日あたりの新規感染者数も数百人程度で、陽性率も1%台を推移していた。新型コロナの感染は落ち着き、12月のクリスマス休暇に向けて多くの国民が楽観的な気分に浸っていた。
ささいな異変が始まったのは、そんな矢先のことだった。
「S遺伝子が検出されない」…
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