無罪確定の男性の指紋やDNAデータ、国に削除命令 名古屋地裁

山下寛久
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 無罪判決が確定した男性が、警察が保管する指紋とDNA型、顔写真データの削除などを求めた訴訟の判決が18日、名古屋地裁であった。西村修裁判長は「保管すべき具体的な必要性は示されていない」と述べ、国にデータの抹消を命じた。原告側弁護士によると、同種の判決は初めてとみられる。

 男性は名古屋市瑞穂区の奥田恭正さん(65)。2016年10月、自宅近くの高層マンション建設に抗議していたところ、工事業者の現場監督を突き飛ばしたとして暴行容疑で現行犯逮捕された。名古屋地裁は18年2月、防犯カメラの映像などから突き飛ばす行為はなかったと認定して無罪を言い渡し、確定。奥田さんは同年7月、データの抹消などを求めて提訴した。

 西村裁判長は、指紋やDNA型などは、みだりに取得・利用されない自由が憲法13条で保障され、データベース化によって情報漏出やどう使われるかわからないことへの不安など、国民の行動を萎縮させる効果がないとはいえないとした。

 データベース運用の根拠である国家公安委員会規則について、保存期間の定めがないなど「脆弱(ぜいじゃく)な規定にとどまる」としたうえで、本人の死亡か「保管する必要がなくなったとき」に抹消するとの規定について検討。無罪が確定したときは、データベース拡充の有用性といった抽象的理由ではなく、「余罪の存在や再犯の恐れ」などの具体的な必要性が示されない限り、保管する必要がなくなったと解するべきだと判断した。奥田さんにこうした事情がないことから、国にデータの抹消を命じた。

 携帯電話データの抹消請求と、逮捕や起訴も不当だったとして、愛知県と国に求めていた計1100万円の損害賠償請求については退けた。(山下寛久)

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    曽我部真裕
    (京都大学大学院法学研究科教授)
    2022年1月19日12時12分 投稿
    【解説】

     比較的最近でも、広島県福山市で01年2月に起きた主婦刺殺事件で、DNA型記録を手がかりに67歳の男が21年11月に逮捕・起訴されたケースがあったなど、DNA型記録データベースは、有力な捜査手段となっています。しかも、一般論的に言えば、客観

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