子どもを見られるのはいつまで… 親なきあと、いま準備できること
障害のある子どもの介護をしている親の多くが、「自分にもしものことがあったら、この子は……」と、将来についての不安を抱えているといいます。そんな思いを解消する手助けになればと、当事者として、また行政書士としての視点などを生かして「親なきあと相談室」(https://www.oyanakiato.com/)を開設している渡部伸さん(60)に、介護する親が追い詰められないようにしてほしいこと、親と準備しておくと安心なことを聞きました。
当事者として…
渡部さんは、知的障害の娘を育てている。40代、50代と年齢を重ねるうち、「自分はいつまで子どもの面倒を見られるのか」という不安が募ったというが、どこにもこうした悩みを相談できる場所がないことに気づいた。その後、社会保険労務士や行政書士などの資格を取り、2014年に「相談室」を開設。各地で講演会を開催したり、手紙やメールなどによる相談を実施したりしている。
寄せられる悩みは家族らの状況によってさまざまだが、将来の子どもの生活をどう組み立てることができるか、どんな制度の選択肢があるのかなどをアドバイスしているという。
不安は「お金」 どう考える?
渡部さんによると、親が一番不安を抱えがちなのが、将来に必要な「お金」のこと。住居費や光熱費、食費のほか、健康保険料や介護保険料、税金などの固定費といった額を考えると、「この子にいくら残せばいいのか」と悩んでしまう人が多い。
しかし、渡部さんは「親が子どもの生涯に必要なお金をすべてを用意しなければいけない、という考えは現実的ではありません」と言う。親がお金を残すという手段以外にも、障害基礎年金や自治体独自の補助など、福祉を通じて支援が受けられる制度もあるというのがその理由だ。
「いくら残すか、という視点より、『本人が必要なときにお金を使えるための仕組み作り』が重要です」
家族や信頼できる知人などに財産管理を依頼する「信託制度」や「成年後見制度」などを早くから比較検討し、本人にとって使いやすいものを考え、手続きを進めておくことをアドバイスしている。
地域とのつながりも大切に
また、渡部さんは「親はいつまでも子どもと暮らせるわけではない」という視点から、生活面についても「早くから地域につながる道筋を考えることが大事」と訴える。具体的には、親が同じ境遇の家族とのつながりを持つようにしたり、子どものショートステイを活用したりすることを検討してほしいという。
同様の障害のある子どもの親が集まる「家族会」は、地域ごとに組織が結成されているケースが多いという。悩みを共有したり、制度についての情報交換をしたりするほか、「自分の子どものことを知ってもらうことで、いろいろな人から支えてもらえるきっかけ作りにもなります」。家族会の情報は、インターネットで各団体のホームページを検索できたり、内閣府などの「NPO法人ポータルサイト」などでも該当する団体を見つけることができたりする。自治体の窓口などで紹介してもらう方法もあるという。
ショートステイの利用にあたっては、「この子の面倒を見るのが親の役目」「他の人には任せられない」という考えが強く敬遠されるケースも多いというが、「将来、親と離れて生活するための練習になる」と渡部さん。自身も、月に数回、1泊2日などのショートステイを利用しており、「家庭以外の場所で生活するための練習も重要。親にとって、休みの時間を確保できることにもつながります」。ショートステイを利用するときは、自治体の障害者支援の窓口に相談し、障害福祉サービス受給者証を受け取る必要がある。その後、受け入れている各施設とやりとりし、利用日程などを決めていく流れだという。
「助けて」を言える社会に
介護に追い詰められたり、疲れたりしたとき、「(家族だけで)頑張らない介護」という視点はだんだんと浸透してきた、と渡部さんは言う。その一方で、子どもに障害があることを公にしづらかったり、「助けてほしい」と言いづらいと感じたりしている親が多いことも相談室を開設するなかで痛感している。「社会の中で、もっと障害に対して寛容な雰囲気が広まってほしい。そうすれば、親も『助けて』と言いやすいのではないでしょうか」(中井なつみ)