【動画】自由気ままに天下取ったり 備中松山城猫城主 さんじゅーろー=中村通子撮影

 金襴緞子(きんらんどんす)に特注畳。「天空の城」として名高い備中松山城内(岡山県高梁〈たかはし〉市)に据えた御座所に「城主」が悠然と座ると、次々声がかかる。「殿!」「さんちゃ~ん♡」「かわいいー」。それでも全く動じない。コロナ禍が一息ついた昨秋、こんな光景が戻ってきた。

 城主は雄猫「さんじゅーろー」。名は備中松山藩士から新撰組隊長になった谷三十郎にちなむ。元日に推定で7歳になった。元は野良。市内の家庭に引き取られていたが、高梁市にも大きな被害をもたらした2018年7月の西日本豪雨直後に逃げ出し、どこをさまよったのか、1週間後にやせこけた姿で城に現れた。

 えさをもらい城に居着くと、福々しい丸顔に、おおらかで堂々としたふるまいで人気を呼んだ。城を管理する高梁市観光協会も、皆めろめろになりこぞって平伏。さんじゅーろーは明治維新以降、空席だった城主になった。

 さんじゅーろー効果は、実に歴史的だ。

 豪雨で激減した観光客は数カ月でV字回復。人気の重圧か18年11月に一時失踪したものの、約1カ月後に帰城。その後は城内にとどまり、見回りや接客に努め、翌19年5月には1カ月の入城者が過去最高の約1万6千人を記録した。

 さんじゅーろーをあしらったグッズや土産品は100を超え、昨年7月に地元農協が日本茶パック(540円)を売り出すと、10月には茶全体の売り上げが対前年同月比130%に跳ね上がった。さんじゅーろーを題材にした20年秋の催しには約3千人が集まった。

 「たま駅長」など猫社員を多数登用していることで有名な両備グループ(岡山市)の小嶋光信代表兼CEOも「見事な城主ぶり。猫自身が働くことに喜びを感じていますね」と絶賛した。

 20年からのコロナ禍で、3回に渡って閉城を余儀なくされたが、毎回再開するやいなや「さんじゅーろーに会いたくて」と客が次々訪れる。層も広がった。以前は歴史や城の愛好家が中心だったが、家族連れや若い女性が増えたという。SNSのフォロワーも約2万人にのぼる。

 野良猫の放浪生活から、下克上。城主にのぼり詰めたさんじゅーろーは、100年に一度の「猫年」も、小さな山城に人を呼び、まちに福を招き続ける。(中村通子)

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 名は備中松山藩士から新撰組隊長になった谷三十郎にちなむ。3日まで休城。