部活文化を問う
「部活動に対しては、本当に嫌な思いをしました」
そう話すのは、長男と長女が公立中学校に通う岩手県の30代の母親だ。
その中学は部活動の「全員加入制」をとっている。入学説明会でも、全員が何らかの部に入ることが前提となっていた。
長女は、小学生の頃から地元のクラブで、ある競技に打ち込んできた。中学にはその競技の女子の部がなかったため、別の運動部に入りながら、週末、学校外のクラブでその競技を続けてきた。
そんな中、いくつかの問題が生じた。
長女は学校外のクラブに重点を置いていた。だから、母親は「親は部の保護者会活動に十分に関われず、娘も全ての大会に出場はできない」と学校側に伝えていた。
「了承は得ていました。でも、建前に過ぎませんでした」と母親は振り返る。
「ふたを開けると、なぜ娘が部活動に来ないのかと、部員の保護者たちから圧力を受けるような言動を受けました。部の練習時間もタイトだったので、娘は平日の帰宅後にクラブの自主練習もできない状態でした」
そこで、文化部へ転部しようとしたが、今度は「決済」の連続。親子で転部届けに理由を書き、長女は関係教員を訪ね歩き、それぞれの判子をもらうまで1カ月かかったそうだ。
長男にも中学入学後、紆余曲折(うよきょくせつ)があった。
やはり小学4年生の頃から、ある競技の地域クラブに所属してきた。中学でも続けるつもりだったが、学校にはその競技の男子の部がなかった。そこで、母親は学校に掛け合った。
「顧問を務める教員の人数も限られるので、新しい部をつくれないのはわかっています。だから(その競技の)女子の部に加えていただけませんか」
学校側の回答はこうだった。
「他の男子の運動部の部員数が減るので、認められない」
クラブと学校の部活の両立に苦労した長女を間近で見ていた長男は、掛け持ちは無理だとあきらめた。
長女は幸い、クラブで好きな競技に打ち込めている。一方、長男は好きだった競技をあきらめ、別の運動部に入ることになった。
母親は首をかしげる。
「もちろん、部活が悪いとは思いません。でも、なぜ全員加入にこだわるのでしょうか。今は、学校外の地域クラブも増えた。そして、部活に加入したくない子にはそれぞれ理由がある。多様性という時代の流れをくんで、生徒の自主性に任せることも必要なのではないでしょうか」
「強制では『やらされ感』が強くなり、子どもたちにとってマイナスなのではないでしょうか」
国が定める学習指導要領の総則で、部活動は「生徒の自主的・自発的な参加による」と位置づけられている。全員加入には、それと矛盾した面がある。
「全員加入校」多い岩手、その理由
ところが、2017年にスポーツ庁が集計した「運動部活動等に関する実態調査」によると、全国の公立中の32・5%が全員加入制(文化部含む)をとっていた。
実は、岩手県はかねて、全員加入をとる中学校の率が高いと言われてきた。
実際、19年度、県内の中学…
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