あなたも「ひと箱の本屋さん」 新スタイルの古書店めぐる6つの物語

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井上恵一朗
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 本屋に入り、本棚を眺めながら気になる一冊に手を伸ばす。本好きにとって、たまらなく幸せな時間だ。今、本との付き合い方にちょっとした変化が起きている。買って、読んで、その後は、自分が店主になってこだわりの本を売る――。そんな新スタイルの古書店「シェア型本屋」が東京都内で増えている。本の楽しみ方を広げる、その世界を紹介する。井上恵一朗

シェア型本屋

本棚を定額で借りた人が本を持ち寄って売るスタイルで、店内には箱形の本棚がずらりと並ぶ。「棚貸し本屋」「共同型書店」などとも呼ばれ、ネット書店の台頭で街中の書店が減るなか、全国各地にできている。本棚の賃料が主な収入源で安定的な経営が期待できるメリットがある。「一日店長」となって、店番を棚の借り主が共同で担う店も。渋谷駅直結の複合施設「渋谷ヒカリエ」にもこの秋オープンし、話題となった

1話「白く覆われた本の理由」

 31センチ四方の箱形の書棚の中に並ぶ本は、すべて白い紙で覆われている。

 〈本の厚みやヤケ具合、しおりの位置や大きさなど今まであまり気にしてこなかった事を手がかりにして本を選んでみませんか〉

 JR西日暮里駅(東京都荒川区)そばにあるシェア型本屋「西日暮里ブックアパートメント」。店内には約80の箱形の書棚が並ぶ。書棚はひと箱月4千円の賃料で、本を売りたい人にそれぞれレンタルされており、一つ一つに「棚主」がおり、思い思いの本を並べて販売している。中でも人気なのが、冒頭の白い本が並ぶ書房「鉛白」だ。棚主は、このシェア型書店を運営する建築設計事務所の設計スタッフ、小泉大河さん(31)だ。

 2019年12月の開業にあたって、読書家の小泉さんに出店の声がかかった。

 白い紙で覆うことで表紙や背表紙が見えなくなる。中身がわからないからこその想像する楽しみを引き出したい。「白い本」には、そんな狙いがある。選書のテーマを掲示したり、しおりにコメントを記したりして、本の内容のヒントをちりばめている。

 「ネットで本を安く買える中、実在する書店の強みは、本を見つけた喜び、出会い。ここでは、大型書店でもないような出会い方をつくりたい」

 書棚に並べる本は自身の蔵書から選んでいたが、次第にそれだけでは物足りなくなった。新たな仕掛けとして考えたのが「セット売り」。2~3冊をまとめて紙で包み、タイトルをつける方法だ。

 安部公房の小説「箱男」と、写真家の中野正貴の写真集「TOKYO NOBODY」を組み合わせたセット売りでは「透明人間へ」とタイトルをつけた。自分が透明人間だったら、と想像して2冊をつなぐストーリーを考える。小泉さんにとっても、新鮮で楽しい試みだった。働き始めてから専門書に偏りがちだった読書の幅を、再び広げるきっかけにもなっているという。

 「変な本の世界にあれっ?って思ってもらえたら楽しい」。そんな思いで、箱の中に並べる本を選んでいる。

2話「図書館員のひみつ基地」

 西日暮里ブックアパートメントには、図書館で働く4人が共同で出店し、おすすめの本を販売する棚がある。題して「図書館員のひみつ基地」。

 中心的な役割を担う吉田倫子…

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