社長が自らおむつを履いて 介護をアップデート「ケアテック」最前線

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聞き手・高橋美佐子 写真・林敏行
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 「ケアテック」を知っていますか。介護にテクノロジーを導入しようという新分野で、近年、世界の企業が力を入れています。日本の先駆者の一人が株式会社「aba(アバ)」社長の宇井吉美さん(33)。便と尿をにおいで検知する「排泄(はいせつ)センサー」を研究開発しています。センサーはベッドに敷くシートに埋め込まれ、排泄すると介助者に自動的に通知。データは蓄積され、人工知能(AI)で排泄パターンも解析します。大手パラマウントベッドと共同で2019年、「ヘルプパッド」の製品名で販売を開始しました。

 宇井さんは中学時代、うつ病になった祖母の介護経験から「もろい人間を人以外で救いたい」と考え始めました。千葉工業大学の未来ロボティクス学科に入学。初の実習先だった介護現場で、うめき続ける認知症のお年寄りの下腹部を女性スタッフが押す姿に驚きます。それは下剤が効いているうちに便を出し切り、家族の介護の負担を減らすためでした。また、おむつ交換の際、まだ汚れていない“空振り”や失禁に悩まされる職員に「おむつを開けずに中が見たい」と要望されます。それが原点となり、大学4年生だった11年10月に起業しました。介護職に限りない敬意を抱く宇井さんは「目標は現代のナイチンゲール」と語ります。「19世紀に看護職の地位を向上させ、ナースコールを発明して医療を変えた彼女のように、エンジニアとして介護を『かっこいい仕事』にアップデートしたい」。そんな思いを詳しく語ってもらいました。

「排泄」を研究 技術者の顔に「直撃」したのは…

 ――便や尿をにおいで検知し排泄パターンも把握できるセンサーの研究開発に取り組み十数年。これは「介護ロボット」だそうですね。

 はい、人工知能などのロボット技術を用いて、おむつ交換やトイレ誘導の適切なタイミングを自動通知する製品です。3大介護の一つである排泄は、他の食事や入浴より介護者の負担が重い。失禁すればシーツ交換などの後始末で通常の10倍以上の時間がかかると言われます。

 大学1年の時、実習先の特別養護老人ホームのスタッフから「このケアが正しいかわからない」と明かされました。その姿は、うつ病になった祖母にどう接すればいいかに悩んだ中学時代の自分と重なりました。

 介護職は毎日のおむつ交換で、汚れていなければ「起こしちゃってごめん」、外に漏れれば「気づかなくてごめん」の繰り返し。その時々の最善を尽くして生活を支えていても、排泄ケアに関しては時にベテランでさえ葛藤しています。人間の力だけでは限界がある。だからテクノロジーの力を使って、誰もが自信を持って介護できるようにしようと誓いました。それがセンサーに着手した理由です。

 ――パラマウントベッド社と製品化した「ヘルプパッド」を発売して2年。

 「要介護者の生活を乱さない」をコンセプトに、ベッドの上に敷くシート型です。これまでに約80カ所の施設に計100台ほどを入れました。ただし1台の値段が高額で、機能やサイズも含めて改善すべき点は多いです。本格的に売れ始めるまでにはまだ時間が必要だと思っています。

 abaは現在、社員が十数人…

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