リニア中央新幹線静岡工区問題 有識者会議1年半、次回中間まとめ

玉木祥子
[PR]

 【静岡】リニア中央新幹線静岡工区をめぐり、県とJR東海の議論は膠着(こうちゃく)状態が続いている。大井川の水をテーマに議論する国土交通省の有識者会議は、設置から1年半が過ぎた。次回にも中間報告をまとめる見通しだが、県は「トンネル湧水(ゆうすい)の全量戻し」を一歩も譲らない構えだ。

 9月26日、東京・霞が関で開かれた第12回有識者会議。オブザーバーとして出席した難波喬司副知事は苦言を呈した。

 「トンネル湧水の戻し方は現実的なものが提示されていない。議論は残っている」

 JR東海は、工事中の一定期間は山梨側への水の流出は避けられないと説明する。これに対し、県はあくまでトンネル湧水の「全量戻し」を求める。中間報告案には「工事期間中のトンネル湧水を戻さない場合は、県が求めている全量戻しとはならない」と明記されている。

 JR東海は、山梨、静岡県境の断層帯の掘削では、大規模な突発湧水が発生する可能性があり、安全確保のため山梨県側から上り勾配で掘り進める方針だ。先進坑が貫通するまでの約10カ月間に県外に流出する湧水量を、300万~500万トンと推計。トンネル貫通後に10~20年かけて、県外に流出したのと同量の水を戻すとしている。県は水が戻るまで時間がかかることに反対する。

 静岡県側から掘削するなど県外へ湧水を流出させない方法も検討したが、危険性などから「現時点では、示している方法以外では難しい」(同社関係者)との見解だ。金子慎社長は今月26日の定例会見で「(県の)要請にお応えしたい気持ちはある」とし、「なんとか(理解を得られる別の方法を)これからも検討していきたい」と話した。

 大きな選挙が続いた今年、「全量戻し」を訴える川勝平太知事の言動が目立った。6月の知事選で4選を果たすと、「県民から水を守れるのかどうかを託された」と述べ、その後の参院補選と衆院選では候補者の応援に駆けつけ、リニアを全面的に訴えた。

 「静岡県がだだをこねているのではないか」「県の主張が理解できない」。静岡工区の着工が遅れていることで、リニア中央新幹線の開業時期は見通せず、県にはさまざまな声が寄せられている。県によると、昨年度寄せられた1707件のうち、県の対応に肯定的な意見は54%、否定的な意見は40%、その他が6%だった。これを受け、県は団体や学校などに職員が出向いて直接説明する出前講座を始めた。

 「静岡県とJR東海は基本的な認識が違って対話ができていません」。10月5日、吉田町立自彊(じきょう)小学校の6年生約70人を前に県の担当者が説明した。県くらし・環境部は「県の主張に賛同してほしいわけではなく、あくまで今何が起きているのかを知ってもらうためにやっている」と話す。

 10月27日に岐阜県中津川市で、11月8日には長野県豊丘村で、リニアのトンネル工事現場で崩落事故が続き、死傷者が出た。県内では住民らが大井川の流量減少や環境破壊の恐れを指摘して静岡地裁に工事差し止め訴訟を起こしている。JR東海にとっては厳しい状況が続く。

 一方で、9月には大井川流域市町の首長とJR東海との意見交換会が開かれた。流域市町の声を直接聞く場が設けられたのは初めてで、説明機会を求めていたJR側にすれば、一歩前進とも言えた。しかし、首長からは「住民には簡単にぬぐえない強い不安がある」「水質や水量に妥協することは考えていない」と厳しい本音がぶつけられた。

 有識者会議では水資源だけでなく、生態系への影響についての議論も残されている。中間報告案では、JR東海に対し、地元の理解が得られるよう真摯(しんし)に対応するよう求めている。JR東海は「中間報告の内容をふまえて地元に分かりやすく説明し、流域の方々の懸念解消に努めていく」としている。JR東海がどのように説明していくのか、県や流域市町とどこで折り合いをつけるのか、議論はなお続くことになる。(玉木祥子)

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

【お得なキャンペーン中】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら