「土の臭い」放つ白土三平さん作品 弱者の視点、戦中のひもじさ原点

小原篤

 八つ裂きにされる忍者、生きたまま腹を裂かれる妊婦……。8日に亡くなった漫画家白土三平さんの作品は、しばしば「残酷」と評された。その奥には、自然と共に生き、命を見つめる厳しいまなざしがあった。

 「肉を喰(く)うものは、その肉をもたらす生物(いきもの)の殺される時の声を聞かなければならない」

 1960年代から房総半島で暮らした白土さんは、きのこ狩りや鹿の解体などを記録したフォト・エッセーでこう書いた。命の生々しいやり取りから生きることの価値をつかみ取るという姿勢は、創作にも通じる。原点は、中学生の時に長野県上田市に縁故疎開した体験だ。

「強い者から見る体験してない」

 講談本で猿飛佐助ら忍者の活躍に胸躍らせ、軍国教育真っ盛りの学校で「国家の暴力」を肌で味わい、勤労動員で新田開発にかり出され、家族のため山菜や川魚を取った。思わずおがくずを口に含んでしまうほど、ひもじい暮らしだったという。白土さんの作品が放つ土や草や血の臭いは、少年期の肉体に染みこんだものだったのだろう。

 毛利甚八さん著「白土三平伝―カムイ伝の真実」(小学館)の中で、弱者の立場から世界を見る視点が少年時代の習作から変わっていないことについて、白土さんは答えた。「だって、強い者から見る体験をしてないもの」

 2017年12月、朝日新聞の取材で「カムイ伝」のメッセージを問われた白土さんは、「カムイ外伝」の男装の剣士「飛天(ひてん)の酉蔵(とりぞう)」が最期に「飛んでる! 飛んでるぜえ!」と叫ぶ場面を挙げ、「自己解放です」と答えた。「時間を超え、性別を超え、人の願いは伝わっていくと思います」

 「カムイ伝」は第三部が構想されていたものの、85歳のこの時「もう連載することはできないですね」と答え、ついに未完に終わった。だが白土さんの「解放」への願いは、作品の中に今も息づいている。土や血の臭いに交じって。小原篤