国籍を変えて選んだ勝負曲 小松原組「つかんだ五輪枠、自分たちで」

聞き手・岩佐友

小松原組インタビュー(後編)

 フィギュアスケート・アイスダンスの小松原美里(29)、尊(たける)(30)組はけがや国籍変更などの困難を乗り越え、昨季の世界選手権で北京五輪の日本の出場枠を獲得した。初めての五輪出場をめざす勝負のシーズンへ。思いを語った。

 ――2019年には美里さんがけがで3カ月間ほどリンクを離れた時期がありました。

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 美里 夏のアイスショーの練習で頭から落ちて、首がビリビリとなって。「終わった。動けなくなるかも」と思いました。自分に起きたことが理解できず、「大丈夫、大丈夫」とめっちゃ隠したんです。でも後日、専門家に見て頂いて、脳振盪(しんとう)と診断されました。

 リハビリもしんどくて。ティム(尊)が待っていなかったら、スケートに戻れるかわからなかったです。

 ――尊さんからはどのように励まされたんですか?

 美里 一番覚えているのは、NHK杯を棄権すると決めた後のインタビューで「今までの自分たちの演技はできないかもしれないけど、これを乗り越えた時に美里はヒーローになる」と言ってくれたことがありました。しんどいけど、頑張ろうと思ったことを覚えています。

 尊 これだけ大きいことを乗り越えたら、もうヒーローだと思いました。とても尊敬しています。

 ――米国出身の尊さんは、美里さんがスケートをできない間に日本語を勉強されたそうですね。

 尊 何も助けることができなくて。だから1人で、できることをやりました。岡山で毎日1人で滑りながら日本語の学校に行って、勉強しました。

 ――日本国籍を取得するためですね。尊さんの国籍変更まではどのような苦労があったのでしょうか。

 美里 (17年に)結婚した後に弁護士にお願いしてビザを取りました。そこから国籍を取得するには決められた日数、日本に滞在しなければならず、それがしんどかったです。日本でアイスダンスが練習できる環境は、シングルに比べると少ないので。同時にティムは日本語の勉強をしなければいけませんでした。

 尊 新しいプログラムの練習や振り付けもあったので、海外に行ける日が少なかったのは大変でしたね。

 ――昨年11月19日に日本国籍を取得しました。

 美里 NHK杯の前でした。朝、岡山国際スケートリンクでウォーミングアップをしていたら、ティムが目を見開いてやってきて、「え、まさか?」って。ティムがうなずいて、うわーっと泣きながら抱き合いました。

 それまでずっと、「目標はオリンピック」って言っていたけど、出る資格がなかったんです。それがきつかった。取得できた日は扉がパーンと開いたような感じでした。「頑張っても無理」から「頑張ったら行ける」になった。これはだいぶ違います。

 尊 アイスダンスに転向しましたが、自分はオリンピックには行けないかなと思っていました。国籍の問題が関係なくなったのは大きかったです。

 ――お二人が出会う前、美里さんは日本でなくイタリア、尊さんは米国ではなく韓国やノルウェーの所属で大会に出場したこともありました。難しさはあったのでしょうか。

 美里 イタリアで滑っていた時、日本ではニュースにもなりませんでした。自分が何をしているかなんて誰にもわかってもらえないことは悲しかったです。もちろん、イタリア代表として滑らせてもらっている時はイタリア語の勉強をしますし、イタリアのために尽くします。でも、オリンピックには出場できないんだと諦めていました。いまはスケートを始めた時の夢が軌道修正しながら、また見えてきた。それはすごいありがたいですね。

 尊 アメリカの代表として国際大会に出ることはずっとなくて。でも、フィギュアが好きだから、自分の国の代表選手として演技を見せたいな、と思っていました。日本に住んで、日本人の心もちょっとずつわかってきて。いま日本人になれて、本当によかったと思います。

 ――昨季は世界選手権で19位に入り、北京五輪の日本の出場枠1を獲得しました。

 美里 枠を取る気満々で行って、ベストを出すぞという強い気持ちで挑みました。でも実際に枠を獲得した時、悔しかったんですよね。もっとできたとか、もっと点がほしいとか、そう思ったことにびっくりしました。

 尊 安堵(あんど)もありましたが、オリンピックに向けてもっと頑張ろうと思いましたね。

 ――いよいよ今季は北京五輪シーズンです。

 美里 他のシーズンとは気合が違うし、昨季、務めを果たして枠をゲットしてきた誇りもあります。自分たちがつかんだ枠を自分たちが使えるように。応援してくださる方々も増えているので、しっかり夢をかなえて、みんなに笑顔で喜んでほしいと思っています。

 フリーについて少し話すと、去年までは英語の曲を2人で滑ろうと話をしてたんです。ただ、このシーズンを迎えるにあたって、やっぱり日本代表として滑りたいという気持ちがあって、(和の曲調の)「SAYURI」という曲を選びました。めちゃめちゃ気合が入っています。

 尊 フリーの曲は前から滑りたいと思っていて、よく聴いていました。今年こそできないかなと思って結局できなくて、の繰り返しでした。今回は本当に日本代表として、という気持ちで選びました。

 ――技術的には、どんなところに力を入れていますか。

 美里 昨季はリフトやツイズル、スピンではレベル4が結構取れるようになり、GOE(出来栄え点)も全体的に上がっていました。一方、ストレートラインのステップシークエンスのレベルが取れていないことが多く、スタミナ面の課題が残りました。新しいプログラムは序盤にステップを入れてみるなどの作戦を考えています。

 ――アイスダンスは昨季から高橋大輔選手が挑戦し、国内での注目も高まっています。

 美里 うわさによると、国内でアイスダンスのカップルが増えたと聞いていて、とてもわくわくしています。もちろんライバルとは言われますが、自分たちに何ができるのかと考えたら、選手として大会に出て、結果を残すことだけ。なのでそこに集中して、日々の練習をやるだけと思い始めています。他の選手のことではなく、自分たちができることをちゃんとやることを大事にしたいですね。

 ――最後に、今季の目標を改めて教えてください。

 美里 五輪に出て、日本の最高順位(過去最高は15位)を取りたいと思っています。そして団体戦のメダル。まさかメダルの可能性が出てくるとは思わなかったのですが、世界選手権で、すべての種目で枠を取れて、連盟の方もすごいことだと言ってくれました。

 世界国別対抗戦に出て、ファミリー感もすごい感じたので、自分たちのやるべきことをやって、チームに貢献したいという思いでいます。ペアの選手たち(三浦璃来木原龍一組)とは「自分たちが頑張れば、どうにかできるかも」と話しています。

 尊 世界と戦うところに行くまでを考えると、アイスダンスはまだ少し遠い種目かもしれません。でも、日本のために頑張りたいと思っています。(聞き手・岩佐友)

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