福岡伸一さん解説、真鍋さんの真骨頂 「まさに異世界転生の物語」

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 今年のノーベル物理学賞は、「地球温暖化の予測研究」をした米国プリンストン大上級研究員の気象学者、真鍋淑郎さん(90)ら3氏に贈られることが決まった。地球環境を議論する上で基礎になる研究だ。分子生物学者青山学院大学教授の福岡伸一さんに解説してもらった。

地球研究の受賞は久しぶり

 ノーベル物理学賞の近年の傾向は、2020年はブラックホール、19年は系外惑星、18年はレーザー技術、17年は重力波、他にもヒッグス粒子など遠い宇宙のことやミクロな素粒子を見ていて、一番身近な地球の研究に、ノーベル物理学賞が光を当てたのは久しぶりです。地球を対象にした研究の受賞は、1947年の上層大気の研究までさかのぼります。日本人で最初にノーベル賞を受賞した湯川秀樹博士より2年前のことです。

 それは、地球環境が様々な要素の複雑な絡み合いで成り立っていて、解析が難しいからです。

 最近、天気予報の精度が上がって当たるようになったのは、コンピューターの急速な進化によるものです。広範にデータを集めて高速に解析できることが気象予報には大事ですが、その基礎のモデルをつくったのが真鍋さんです。

 真鍋さんのインタビューを載せた日本気象学会の機関誌「天気」(87年)によると、真鍋さんは58年、20代後半に渡米しました。日本と米国はそう簡単に行き来できず、なかなか思い切った行動でした。当時の米国は、宇宙開発競争でソ連に先を越された、いわゆる人工衛星の「スプートニク・ショック」のまっただ中。米国は科学における覇権を取り戻そうと躍起になっていました。米国の科学に対する研究熱が勃興してきた時期と重なり、世界中から優秀な人材をかき集めていました。

米国に「異世界転生」、そこからが真骨頂

 渡米した真鍋さんは、研究に欠かせないコンピューターを自由に使えるようになりました。当時、米国のコンピューターの性能は日本の30倍以上あり、同時に給料は日本の25倍になったといいます。米国での環境は経済的にも精神的にも楽園だったのです。まさに異世界転生の物語です。

 気象の研究をするうえで、計算能力が高いコンピューターを使えることは圧倒的に有利です。ただ、データを高速に処理できるようになっても、どういうモデルで計算するかが重要です。そこに真鍋さんの研究の真骨頂がありました。

 真鍋さんは気候変動の複雑な…

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