ニクソンと日銀の「最長」総裁 紙切れを貨幣に変えるものは

有料記事多事奏論

編集委員 原真人
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記者コラム「多事奏論」 原真人

 短命政権も困りものだが、枢要ポストに長く居続けることが必ずしも最高の仕事を成し遂げてきた証しとは限らない。日本銀行黒田東彦(はるひこ)総裁(76)の在任が先月で8年6カ月となり歴代31代の総裁で最長となった。残り任期も続けると10年を超える。

 在任が長引いたのは政策の失敗の裏返しでもある。2年で2%インフレ目標を達成すると豪語し、異次元緩和で短期決戦に打って出ながら、いまだ達成のめどさえ立たないのだ。金融市場にばらまいた空前の規模の通貨円はいまや金融政策と財政にとって巨大な負の遺産となり、出口戦略のとっかかりすら見えない。

 これまで在任最長の第18代総裁、一万田尚登(いちまだひさと)はどうだったか。戦後GHQと渡り合い、日銀の制度的枠組みをつくりあげて、「法王」の異名をとった実力者である。

 城山三郎の「小説日本銀行」には一万田がモデルとみられる大物総裁が登場する。こんな一節がある。「利害にくもった政治家たちの言説とはちがって、日銀総裁は孤高の椅子に立って、あくまで正論を吐き続けねばならぬ。それは、場合によっては勇気と見識を要する仕事である」と。

 城山は、「通貨の安定」という日銀の究極の目的をめぐる、組織とその内にいる個人の葛藤を小説のテーマに選んだ。

 初版から8年、ちょうど今から50年前、この小説は出版社を変えて再び文庫化される。時代に求められたかのようなタイミングだった。1971年8月に米ニクソン政権が突然、ドルと金の交換停止を発表。世界経済を激しく揺さぶっていたころだ。

 「ニクソン・ショック」は急…

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