「喜んで納税」訴えた首相も パンドラ文書、租税回避の裏顔あらわ

 国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が入手した「パンドラ文書」には、タックスヘイブン租税回避地)を介した取引に関わった世界91の国・地域から330人以上の政府高官ら公人の名前が記されていた。なかには、反腐敗や租税回避の撲滅などを訴えてきた首脳らも含まれている。

 文書によると、チェコのバビシュ首相は2009年、タックスヘイブンの企業を介して2200万ドルを投じ、南仏カンヌ近くの村の大邸宅などを購入していた。ICIJは、これらの企業や住宅が公人に求められる資産申告には見当たらないとしている。

 バビシュ氏は財政界のエリート批判で支持を集めた。ビジネスで成功した大富豪でもあり、前米大統領になぞらえて「チェコのトランプ」とも呼ばれる。政界入りする直前の11年には「起業家らが喜んで納税する」国をつくりたいと訴えていた。

各国大統領や有名歌手の名も続々

 ケニアのケニヤッタ大統領が、パナマの財団の隠れた受益者になっていたことも明らかになった。ICIJは同氏にコメントを求めたが、応じなかった。

 ケニヤッタ氏は18年の英BBCのインタビューで「すべての公職者は、人々が合法性を問えるよう、資産を公にすべきだ」と述べていた。

 ロシア人テレビプロデューサーで、14年のソチ冬季五輪の開閉会式の総合プロデューサーを務めたコンスタンチン・エルンスト氏の名前も登場した。同氏はプーチン大統領と深いつながりがあり、大統領の「イメージメーカー」とされる。

 文書によると、エルンスト氏はソチ五輪の直後、39の市営映画館などを含むモスクワ市所有の土地の再開発事業に関与していた。プーチン氏の「貯金箱」と呼ばれる国営銀行から資金が調達されていた。取引はタックスヘイブンの企業を経由し、エルンスト氏の名前は公になっていない。この事業に関するエルンスト氏の資産価値は、19年までに1億4千万ドルを超えていた。同氏はICIJの取材に、この不動産事業への関与を隠したことはないとし、ソチ五輪での仕事の対価ではないと否定。これ以上の回答は拒んだ。

 パンドラ文書からはほかに、エクアドルのラソ大統領やウクライナのゼレンスキー大統領らとタックスヘイブンとつながりも浮かんだ。また、英国の歌手エルトン・ジョン氏や、ビートルズ元メンバーのリンゴ・スター氏、コロンビア出身の歌手シャキーラ氏やドイツ人スーパーモデルのクラウディア・シファー氏らの名前もあった。

パンドラ文書に出てくる現旧首脳や有名人

ブレア元首相(英国)

アブドラ国王(ヨルダン)

バビシュ首相(チェコ)

ケニヤッタ大統領(ケニア)

ゼレンスキー大統領(ウクライナ)

ラソ大統領(エクアドル)

エルトン・ジョン(英国出身の歌手)

リンゴ・スター(ビートルズ元メンバー)

シャキーラ氏(コロンビア出身の歌手)

クラウディア・シファー氏(ドイツ出身のファッションモデル)

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 〈パンドラ文書〉 英領バージン諸島やケイマン諸島などの租税回避地に法人や組合を設立するのを専門とする14の業者、法律事務所から流出したとみられる1190万件余、2・94テラバイトの電子ファイル群。匿名の人物から国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)に何回かに分けて提供され、多くは1996年から2020年にかけ作成されていた。

 ICIJの呼びかけに応じ、朝日新聞、共同通信(日本)、ワシントン・ポスト(米国)、ガーディアン、BBC(英国)、ルモンドフランス)、南ドイツ新聞など、117カ国から600人のジャーナリストが分析と取材に参加。取材チーム内部で話し合って、「パンドラ文書」と名付け、10月3日(日本時間4日午前1時半)に一斉に報道を始めることにした。

 パンドラ文書の情報源は一人で、匿名とすることを求めているが、そのほかに条件は付されていないという。情報源は、各国の政府当局にこの文書を調べてほしいと希望しており、そのためにICIJに提供したと話しているという。