秋の叙勲で脚本家の大石静さんに旭日小綬章が贈られる。NHKの連続テレビ小説「ふたりっ子」、大河ドラマ「功名が辻」をはじめ、1980年代から現在に至るまで新作の連続ドラマを数々手がける、言わずと知れたヒットメーカー。近年は漫画や小説などを下敷きにしたドラマが多いが、大石さんは原作ものではなくオリジナル脚本が多いのも大きな特長で、現在も「和田家の男たち」(テレビ朝日系、金曜夜)が放映されている。
なぜ、次々と新作を書き続けられるのか。大石さんが朝日新聞の単独インタビューに応じ、受章への思いや、これまでの道のりを交えて語った。
拡大する大石静さん
――このたびはおめでとうございます
私は脚本家になるまで、何をやってもうまくいきませんでした。劇団もやっていたんですが、36歳ごろに「水曜日の恋人たち 見合いの傾向と対策」(1986年、TBS)の脚本でデビューしました。
すると放送後に電話がじゃんじゃんかかってきて、急に忙しくなったんです。山田良明さん(フジテレビで「北の国から」などを手がけたプロデューサー)もその一人でした。
以降、ずっと忙しくなりました。「これでやっと私は人に認められ、報酬も得て、自分の足で立てるようになったんだ。真面目にこの仕事をやっていこう」と思ったんです。
でも、NHKの朝ドラを手がけられるような作家になれるとは思っていなかった。とにかく身の丈にあった仕事をしよう、と。
だから「ふたりっ子」(96年)で朝ドラの依頼があった時、大河ドラマ「功名が辻」(06年)をやって欲しいと言われた時は、本当に驚いたんです。今回も同様に「勲章をもらうほどの仕事をしてきたのか……」と驚きました。
拡大するNHK朝の連続ドラマ「ふたりっ子」のヒロインを演じた菊池麻衣子さん(右)と岩崎ひろみさん=1996年
「ふたりっ子」の時に向田邦子賞をいただきましたが、私は芸術選奨ももらっていませんし、紫綬褒章ももらっていません。「そういうことには縁が無いのかな」とは思っていたし、別にそれでも生きていけるし、仕事もあるからいいけれど、と思っていた。意外でした。ただ、晴れがましいとは思います。
――朝ドラは00年の「オードリー」も手がけています
「ふたりっ子」のチームが「もう一度一緒にやりましょう」と言ってくれたんです。
――千代とその夫である山内一豊の物語「功名が辻」では、合戦シーンが大事だとされていた大河ドラマで、人間関係に焦点を当てた作品としても話題になりました
戦国夫婦ものです。(織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の)三英傑が主役の作品ではないので、有名ではない武士と、その妻を有名な合戦や事件に絡ませるのはテクニックとして難しかった。
本能寺の変なども、何か大きなことが起きたらしいと慌てる下々の目線です。それは評判になったし、視聴率も好調でした。大河の仕事は楽しかったです。
――やっぱり、視聴率は気になりますか?
もちろん、それを「気にしないんです」と言えば仕事も来ない。それも含めて、みんなで一喜一憂しながらやるのが楽しいんじゃないですか。
でも数字がダメでも、チームとして信じたものを貫くのが私の姿勢です。数字が悪いからといってズタボロになるチームは、私の経験ではありません。
――脚本家として、ほかの人と違う部分はどういうところにあると
昔は、自分の特性は分かりませんでしたね。
――実績を重ねた今は?
愛想がいいし、腰が低いし、なんか使いやすかったということもあると思います。
――ご謙遜を
うーん、だけど、やっぱりせりふがうまいとか、独特の視点があるとか、そういうことじゃないですか。
拡大する「功名が辻」の収録前、山内一豊と妻の千代の墓を訪ね、手をあわせる上川隆也さん(写真左)と仲間由紀恵さん=2005年、京都市右京区の妙心寺
――独特の視点とは、人間模様の描き方とかでしょうか?
私、人間は多面的なものだと思っているんです。ドラマってけなげな女の子を、けなげに描く、という作品が割と多いんですが、私のヒロインの多くには毒もあるし、天使の心も悪魔の心もあるような描き方を必ずします。そういう意味で、独特かもしれません。
あとは、(多くのドラマは)体制寄りの作品が多いように感じているのですが、私は既成の価値観を疑うまなざしを必ず込めたいと思ってやってきました。それは強く自覚しています。
――「家売るオンナ」(16年、19年に続編「家売るオンナの逆襲」、日テレ)で北川景子さんが演じた三軒家万智も、既成の価値観とはかけ離れた役でした
既成の価値観を打ち破ろうと思って作りました。(北川さんも)吹っ切れたと思います。楽しそうに演じてくれていたみたいです。
――大石さんは、長年のシリーズものがあまりなく、新作の連続ドラマを常に手がけている印象があります
若い頃は本当は、「金八先生」みたいに続いていく作品が欲しいと思っていたんです。でも、私の作品ってどうしても、絶対に続かないような終わり方になっちゃうんです。
昔「長男の嫁」(94年、TBS)という作品をやった時にシリーズ2をやりました。でも結局飽きちゃって、3シーズン目をやる気分じゃなかったです(笑)。
――けれど、一つそういう長く続くシリーズがあると、安心ではないですか?
安心ですよね。
――それでも、常に新しいものを作りたい?
そうですね……そのほうが、格好いいと思っています。新しいものを、というつもりはないけれど、違うことをやったほうが、しんどいけど面白いじゃない?
いつも試されている。いつもテストを受けている感じって、すごく疲れるし、ストレスも強いけど、でもそれのほうがいいんじゃないかなと思って、そういう道を選んできたんだと思います。
――ずっと第一線で新しい作品を書くとなると、ご自身のアップデートも必要ですね
私、毎日一生懸命生きていれば、自然とアップデートはされるものだと思います。よく、「あなたは年を取っているから、若い人のことは分からないでしょう」って言われますけれど、私は今の時代を普通に生きているし、外国から来たわけでもなく日本で生活して、日本を舞台にした物語を書いている。そういう意味では「アップデートしなきゃ」って焦ったことは一度もないです。
――テレビを取り巻く環境も、今と昔では随分変わりました
まったくそうですよね。ネットフリックスやアマゾンなど、配信も非常に増えました。
発表する場が増えることは良いことです。私たちは、たった1人の一匹おおかみですから、良いコンテンツを作る力があれば、どんなに環境が変化しようとやっていけるのではないかと思っています。
色んな間口が広がって、新人脚本家の登場のチャンスも増えたでしょう。昔は朝ドラや大河、ゴールデン帯のドラマといった数少ない枠を、たくさんの人たちで争っていたわけです。だから今の状況を歓迎しています。
――ご自身が脚本を手がけたドラマに対して、演出などをご意見されることは?
ないです。決定稿になったらそこから先は監督とスタッフ、役者たちの世界です。私は基本的に一切口を出しません。
拡大するドラマ「家売るオンナ」に主演した北川景子さん=2016年、山本友来撮影
たとえば、「家売るオンナ」の初回を見た時は「ああ、こういう(コミカルで大げさな)味付けなんだ。ちょっとデフォルメしすぎじゃない?」とは思いました。だけど、言いませんでした。万智が歩くときにカキッ!と曲がるとか、「GO!」って言う時に風が吹くとか、最初は「やりすぎでは?」と思ったんです。
記事の後半では、大石さんの強みでもあるオリジナル作品へのこだわりと、「原作もの」への思い、そして霞が関や医療、報道といった社会派の題材を書くきっかけは何なのか、話が広がります。
でも、「これが猪股隆一監督の…