無給の残業は「引き継いではいけない悪習」62歳教員が立ち上がった

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森下友貴
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 時間外労働に残業代が支払われないのは違法だとして、埼玉県の公立小学校教員の男性(62)が県に未払い賃金の支払いを求めた訴訟の判決が10月1日、さいたま地裁である。教員の長時間労働の温床とも指摘されてきた「無給の残業」が労働基準法違反だと訴えた初の裁判。男性は「若い教員が安心して働けるようになってほしい」と話す。(森下友貴)

「若い人、安心して働けるように」

 「若い世代には絶対に引き継いではいけない悪習」

 原告の男性は、学校現場で常態化している長時間労働について、そう訴える。

 男性が教員として働き始めたのは40年前の1981年。当時は若い教員が多く、幼い子どもを育てながら働く教員も多かった。出勤は定時の朝8時半ごろで、勤務終わりの午後5時を過ぎると、保育所に迎えに行くためにすぐに帰宅できた。

 職員会議では参加した教員がみんなで意見を出し合って業務を決めていたので、教員間のコミュニケーションも絶えなかった。土曜日は午前に授業を終え、午後は趣味のサッカーを子どもたちに教えた。「子どもたちの笑顔が大好きだった。一生この職業で働こうと思えた」と振り返る。

 ただ、働き方は2000年ごろから徐々に変わっていった。文部省(現・文部科学省)は学校の運営などについて定めた学校教育法施行規則を改め、職員会議について「校長が主宰するもの」と明記した。校長と職員会議の意見が対立した場合、校長の意思を優先することを法的に裏付けた。

 児童の登下校の見守りや指導、朝自習の準備……。職員会議を通じ、これまではやって来なかった様々な業務がトップダウンで教員に割り振られるようになった。教員の反対意見が通じにくい環境が徐々にできていったという。

 訴訟を起こす直前の17~18年、男性の出勤時間は定時より1時間早い午前7時半になっていた。児童の欠席連絡を職員室で受けるためだ。8時には登校してくる児童を教室で迎えてあいさつをする。朝マラソンにも参加し、児童と校庭を走った。

 午後4時に児童が下校後も職員会議や打ち合わせがあり、テストの採点や翌日の授業の準備などの事務作業は勤務時間外にやらざるを得なかった。忙しい時は学校を出るのは午後9時ごろ。残業は月平均で約60時間にものぼった。

 衝撃を受けたのが、後輩だった女性教員の「今の働き方では結婚はできても、子育てまではできない」という言葉だ。「若い教員にそんな思いをさせてしまっている。たった1人でも、自分が裁判で立ち上がろうという使命感のようなものが湧いてきた」

 それからまもない18年9月、男性は県に11カ月分の残業代約240万円の支払いを求め、さいたま地裁に提訴した。19年に定年退職し、今は再任用で県内の別の小学校に勤めている。

 男性は言う。「残業が労働基…

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