高市氏支持層の過熱、河野氏はノーガード…総裁選SNS戦略の裏側は

自民党総裁選2021

聞き手・山下剛

 自民党総裁選はSNS上での戦いも過熱している。選挙コンサルティング会社社長でSNS分析にも詳しい大浜崎卓真さん(33)は、総裁選での河野太郎行政改革担当相のSNS運営を「ノーガード戦法」とみる。その狙いは。そもそもこの総裁選で各陣営がSNSでの発信に力を入れるのはなぜなのか。

際立つ特徴

 ――SNSでの自民党総裁選をめぐる動きをどうみていますか。

 今回の総裁選に立候補した4人のSNSでの支持層には、それぞれ特徴があります。

 私が代表を務める選挙コンサルティング会社では、4人の候補のツイートに「いいね」をしたアカウントのプロフィルを形態素解析という手法で分析しました。

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選挙コンサルティング会社社長の大浜崎卓真さん(提供)

 各候補の直近の50ツイートに「いいね」をしたアカウントを100アカウントずつ集め、そのプロフィルに登場する言葉を分析します。登場頻度が多い言葉ほど大きな文字で表す「ワードクラウド」で見てみると、河野氏以外の3候補はその特徴が際立っています。

「ノーガード戦法」の狙いとは?高市氏支持者が加熱するわけは?

 河野氏のノーガード戦法の狙い、高市氏支持層の過熱と安倍前首相の関係、埋没感ある野党が打てる戦略はあるのか……。記事後半で解説します。

 河野氏のワードクラウドには「趣味」や「ゲーム」「ファン」といった言葉が目立ち、逆に政治に関連する言葉は見当たりません。比較的若い世代からの支持があることがうかがわれ、政治的無関心層からの支持が厚そうです。

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河野太郎氏のツイートに「いいね」をしたアカウントを形態素解析をしたワードクラウド=大浜崎さん提供

 一方、岸田文雄政調会長は地元・広島に関連する言葉のほかに、「看護師」「司法書士」などの言葉もあり、自民党の支持団体や組織を想起させる言葉が目につきます。各種団体へアプローチを強めている組織戦の一端が垣間見えます。

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岸田文雄氏のツイートに「いいね」をしたアカウントを形態素解析をしたワードクラウド=大浜崎さん提供

 政治信条が色濃く反映されているのが高市早苗総務相です。ワードクラウドには「日本」「日本人」のほかに「反日」「愛国」「保守」といった言葉が並びました。いわゆるネトウヨと呼ばれる人も含めた保守層の支持を受けていることがうかがえます。

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高市早苗氏のツイートに「いいね」をしたアカウントを形態素解析をしたワードクラウド=大浜崎さん提供

 野田聖子幹事長代行は政策に関連する言葉が目立ちます。選択的夫婦別姓の「夫婦別姓」や医療的ケアを必要とする子どもの「ケア児」など、野田氏が取り組んできた政策に絡んだ言葉が登場し、政策訴求の強さをうかがわせます。

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野田聖子氏のツイートに「いいね」をしたアカウントを形態素解析をしたワードクラウド=大浜崎さん提供

「ノーガード戦法」の狙いは

 ――SNSでは、人気が先行する河野氏を高市氏のフォロワーが批判する動きも出ています。

 そこでとっている河野陣営の戦術が、「あしたのジョー」に出てくるノーガード戦法です。攻撃に対してあえて防御をせず、両手をぶらりと下げたあの戦法です。

 その気になれば、河野陣営はもっとキラキラした動画を配信することだってできるはずです。でも、高市氏のフォロワーの批判にもあえて反論をせず、感情的にならずに、おしとやかな河野太郎を演じています。

 ――なぜノーガード戦法なのですか。

 河野氏は、ツイッターでフォロワーと当意即妙なやりとりをするのが持ち味です。でも、河野氏らしさは弱まっても、泥沼の論争になって自民党自体のイメージを低下させるのを防ぎたいという狙いがあるのだと思います。

 総裁選の後には衆院選が控えています。そこで自民党の得票を減らすことにならないようにということです。

 ――そもそも高市氏のフォロワーはなぜ、河野氏を攻撃するのでしょう。

 もともと河野氏のアカウントは国内で有数のフォロワー数を誇っていて、他の候補はそれに対抗する必要があります。

 一方、自民党員調査で、若い世代では河野氏に次いで高市氏が支持されているというデータもあり、高市陣営はその点に注目して、若い世代から支持されているというムーブメントを形成しようとしているんです。そのことによって、まだ態度を明確にしていない議員を牽制(けんせい)する狙いもあるのだと思います。

 でも、それだけではありません。

 今回、高市氏は安倍晋三前首相が支持していますよね。安倍前首相を支持していた層は、安倍さんが辞任した後、応援する先がなくなり、フラストレーションがたまっていました。そこに安倍さんの思想を受け継ぐシンボリックな存在として高市氏が登場し、再起動ボタンを押されたのです。

 ――自民党総裁選がSNS上でここまで過熱するのは初めてのことではないでしょうか。

 私もそう思います。コロナ禍で街頭演説会が開かれないこともあって、各陣営ともSNSでの発信に力を入れてきたこともありますが、それだけではありません。

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自民党のホームページの総裁選特設ページ

 おそらく見据えているのは、憲法改正国民投票だと思うんです。衆院選では選挙費用など公職選挙法の規制がかかりますが、今回の総裁選は公職選挙法の適用外となるので、実験的な試みができます。

 憲法改正国民投票は一部、公選法を準用することになっていますが、ネット広告などは規制されません。このため、どのようにアプローチすればネット世論が形成されるのかを試す機会になっているのです。

「蚊帳の外」の野党に戦略は

 ――自民党総裁選で埋没している感がある野党に、対抗するすべはあるのでしょうか。

 立憲民主党枝野幸男代表や安住淳国対委員長は「国会を開くべきだ」と主張していますが、残念ながら逆効果だと思います。

 このままでは、野党の主張はテレビのニュースでもアリバイ的に紹介されるだけ。残念ながら、新首相の所信表明演説に対する代表質問まで、出番はありません。

 むしろ総裁選の土俵に思いっきり乗っかって、4人の候補を政策ごとに◎、○、×といった具合に評価したらどうでしょうか。

 4人の候補が主張する政策の中には、立憲や国民民主党などが訴えている政策もあります。論戦に参加することで、たとえば「岸田さんの主張は、うちが去年の5月から訴えているものだ」という訴え方もできるのです。(聞き手・山下剛