「米中の共存、選択肢にならず」 米の対中制裁の実務責任者語る

ワシントン=青山直篤

 24日に米ワシントンで開かれる日米豪印4カ国(クアッド)首脳会談では先端技術や経済・海洋の安全保障をめぐる中国への対応が主要テーマになる見通しだ。トランプ前政権で通信機器大手・華為技術ファーウェイ)などに対する輸出規制の対中制裁を実務トップとして担ったナザク・ニカクタール元米商務次官補が会議を前に朝日新聞の取材に応じ、「中国は米国の打倒を図っており、米中の共存は選択肢にならない」と強調。軍事に直結する先端技術分野の協力が、クアッドの枠組みの中核になるべきだとの考えを示した。

 イラン生まれで、6歳の時にイラン革命で米国に移住したニカクタール氏は、「米国の根本的欠陥は、革命や混乱を長く経験していないため、ほかの国家がどれほど極端な行動に出るかに想像が及ばないことだ」と指摘。中国が2001年の世界貿易機関(WTO)加盟以降、知的財産の窃取や多額の産業補助金などによって米製造業を弱め、「(リーマン・ショック後の)08~09年ごろから、米産業を空洞化させる攻勢を加速させた」と述べた。

 さらに、米製造業の苦境は「トランプ大統領の当選を後押しした」とも指摘。トランプ政権はライトハイザー前通商代表が主導し、知財侵害を理由に中国へのたび重なる制裁関税を発動。バイデン大統領もこうした強硬策を維持しており、ニカクタール氏も「党派政治を脇に置き、政策の妥当性を踏まえて継続している点は高く評価できる」と述べた。

 一方で、ニカクタール氏は「(米政権は)閣僚でも『経済戦争』について理解していないことがある」と指摘。自国が持つ巨大市場の魅力や戦略物資といった経済的な「武器」を使って各国が繰り広げる「経済戦争」について、「十分に理解した人々が政策を練る必要がある」と訴えた。

 商務省は19年5月、安全保障上の懸念から輸出を規制する「エンティティーリスト」に華為を加え、制裁を発動。トランプ氏は華為への制裁を、米中通商協議で譲歩を引き出すため自らの一存で解除できる「交渉カード」のように扱い、翌月末に大阪で開かれた主要20カ国・地域首脳会議に合わせた中国の習近平(シーチンピン)国家主席との首脳会談でも主要議題とした。その後、トランプ氏から離反したボルトン前大統領補佐官などは、こうした姿勢を強く批判した。

 トランプ氏が制裁を決定した当時、風邪で寝込んでいたニカクタール氏は電話を受け、39度の高熱のなかで官報を書いたという挿話も明かした。「法的には、中国を(次世代通信規格)5Gの競争で抑えることは『エンティティーリスト』に加える理由とはなり得ない」と述べつつ、「米国と同盟国が後れを取れば、平和と民主主義を信じない国に(技術競争で)先を越され、危険な状況に陥る」とも述べ、当時の決定に至った理由を語った。

 さらに、クアッドについて「技術協力に加え、地理的な位置と同盟国によるネットワークという観点で考えれば、非常に価値ある枠組みだ」と評価。民生・軍事技術の双方でカギを握る半導体と、レアアースなど重要鉱物との2分野の供給網の強化を4カ国の協力の中心に据えるべきだと指摘した。

 最先端の半導体技術は、米中対立の正面である台湾の台湾積体電路製造(TSMC)が一手に担っており、中国がTSMCなどを支配下に置けば「米国の防衛力は破壊される」と懸念を示した。

 中国は世界中で鉱山の買収も進めているとされる。日米が重要鉱物の産出国に対し、コロナ対策の支援と引き換えに安定供給を求めるような戦略も検討すべきだ、とも述べた。

 中国は米半導体産業が売上高の4割近くを稼ぐ最大顧客で、輸出規制の強化は米国の競争力を弱めかねないとの指摘もある。これについて「危険な国家に米企業がものを売って今日は利益を出していても、明日にはつぶされるかもしれない。これほどの国家安全保障上の課題を前に、企業の利益競争がなぜそれほど重要なのか理解できない」と疑問を投げかけた。

 ニカクタール氏は、トランプ氏が日米通商交渉の「脅し」として掲げた自動車への制裁関税の根拠にもなった、米通商拡大法232条に基づく調査も担った。

 トランプ氏は発動を見送ったが、調査報告では、日本車も含めた輸入車が「米国の安全保障を損なっている」と結論づけた。ニカクタール氏は米自動車産業について「技術が海外に流出し、まるで20年前の中国のように、残ったのは組み立て工程ばかりになってしまった」と危機感を強調。ただ、「(トランプ政権内でも)関税は正しい解決法ではないとの見方も多く、他の方法も提案した。最終的には(発動に踏み切らなかった)トランプ大統領も同意したのだと思う」と振り返った。(ワシントン=青山直篤)