大阪市保健所は新型コロナウイルスの「第5波」に備えて体制強化計画を立てたが、想定を上回る感染急拡大により再びパンク状態に陥った。大阪府は保健所業務のあり方を見直す必要があるとし、負担軽減策を打ち出すほか、患者が直接診療を受けられる仕組みづくりを急ぐ。

 感染症法により、保健所にはコロナ患者の情報を把握する役割がある。業務内容は健康相談、入院・療養の調整、感染経路や濃厚接触者などを確認する疫学調査、自宅療養者の健康観察など多岐にわたる。

 今春の「第4波」での大阪市保健所の逼迫(ひっぱく)は深刻で、保健所から患者への最初の連絡まで1週間以上かかる場合もあった。連絡がとれる前に3人が自宅で死亡した。患者対応の「入り口」の目詰まりは、その後の治療にも影響する。

 その反省から市保健所は7月、「第5波」向けの体制強化計画を策定。1日あたりの市内の新規感染者数を5段階に分け、疫学調査チームの人数を定めた。「第4波」は最大80人体制だったが、185人体制まで拡充した。

 また、患者の状態把握と入院・療養方法を決めるための最初の連絡「ファーストタッチ」を最優先し、感染判明2日後までの実施を目指すとした。

 しかし、8月後半に1日あたりの新規感染者が府内で2千人を超え、そのうち約1千人が市内に集中した。「第4波」ピーク時の560人を連日上回るなかで、保健所の業務は逼迫。ファーストタッチが4日後になることもあった。

 入院に要する日数は1~2日だったが、宿泊療養には遅れが生じた。府によると、7月26日~8月18日の感染者が宿泊療養施設に入所するまでの日数は市内で平均3・63日、他の地域は1・96日。8月1~17日の感染者で入所した人は、それぞれ16・8%、46・9%で大きな差があった。

 市保健所の担当者は「1日の新規感染者が1千人以上となることは想定していたが、そのピークが2週間以上続くとは想定していなかった」と話す。患者1人あたり20~30分と見込んでいたファーストタッチが1時間以上になることも。今月7日に疫学調査チームを約180人から約200人に増やしたが、松井一郎市長は「保健師や看護師は全国で不足している。募集してもなかなか集まらない」と指摘する。

 自宅療養者の健康観察については、一部を地域の訪問看護ステーションに依頼する。府が保健所の負担軽減に向けて整備した仕組みだが、市内の自宅療養者は1万人を超えるのに対し、依頼は約40人分にとどまる。市保健所の担当者は「ほとんどは電話の健康観察で対応できる」としたうえで、「どんな場合に依頼すればいいのか手探りの部分もある」と話す。

 府は保健所の負担軽減に向け、学校で感染者が出た場合、感染した児童・生徒らの行動や濃厚接触者などを確認する疫学調査を教職員が補助する運用もスタート。府医師会は保健所からの連絡がなくて不安になる患者を減らそうと、医療機関を案内する電話窓口を開設した。

 吉村洋文知事は、「第6波」に向けて保健所のあり方を見直す必要があると強調する。「保健所を介さずに早期に治療介入する仕組みをつくっていく。保健所が全く関与しないということではないが、保健所が(患者対応の)すべての入り口という議論はやめたほうがいい」(添田樹紀)