重症患者治療に欠かせない専門医 「どこに何人」国は把握していない

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枝松佑樹 阿部彰芳
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 東京や大阪など19都道府県で13日から、緊急事態宣言が延長された。全国民の5割がワクチンの2回目接種を終え、新規感染者数も減る傾向だが、重症者数は高止まりの状態で医療は逼迫(ひっぱく)したまま。集中治療を担う全国の専門医が支援のため東京入りし、救命活動が続いた。

手術延期、初診の制限「災害対応のよう」

 今月8日夜。都立駒込病院(文京区)のコロナ病棟では5人の重症患者が人工呼吸器から酸素を送られていた。60代の男性は、のどを切開して管を入れている。痛みなどを和らげるため鎮静剤を使い、意識レベルも低い。山形大医学部から支援に来た小野寺悠医師(38)は男性の表情を注意深く見守った。

 小野寺さんは集中治療の専門医だ。どれくらい痛みを感じているか、それは管を入れたことによるのか呼吸不全によるのか――。見極めには専門知識と経験が欠かせない。男性の血中酸素飽和度などをチェックし、酸素量を減らすよう駒込病院のスタッフに助言した。「重症患者はしばらく一進一退を繰り返します。人工呼吸器をいつ外すかの判断が最も難しい」

 駒込病院はがんの高度専門病院で、人工呼吸器の扱いに慣れた集中治療の専門医はいない。これまではおもにコロナの中等症患者を診てきた。だが「第5波」拡大で、8月にコロナの入院者数が150人を超えた。同月半ばからは、他の病院で診きれない重症患者を入院させることになった。都によると都内の重症者数は、7月初旬の約50人から8月末には6倍の約300人に急増した。

 これまでも重症患者の受け入れ実績はあるが、多くても同時に4人。それが、病院にある人工呼吸器の上限数にあたる12人まで増やす必要が出てきた。重症患者のケアに対応するため、他の診療科から医師を10人以上集めたが、それでも足りない。一般診療は手術の延期や初診の制限によって4割減らさざるを得なくなった。感染症科の福島一彰医師(36)は「災害対応のようでした」と振り返る。

 重症患者が急増する都内の窮状をどう助けるか。全国の集中治療の専門医らでつくる「日本ECMOnet(エクモネット)」が取り組んだのが「広域支援」だ。同理事の清水敬樹・都立多摩総合医療センター救命救急センター長は、「大学病院などの集中治療室は自力で頑張れる。今回は、普段は中等症患者を診る病院が、人工呼吸器が必要な患者を診なければならなくなった。それにより救命率が下がることを防ぐことが重要だった」と説明する。

 北海道、山形、大阪、島根、福岡……。感染状況や医療逼迫が首都圏に比べて厳しくない地域から、専門医を集め、8月23日から都内の各病院に派遣。小野寺さんは「これほど重い呼吸不全の患者を、これほど一度にたくさん診た経験はなかった。『きついな』と」

 連日3~4人が支援に入った駒込病院では、13日にその期限を迎えた。都内では病床の逼迫はまだ続く見通しだが、こうした支援が効果を生むと期待される。専門医が研修会を開いたり個別に教えたりして人工呼吸器の扱い方を浸透させ、今は耳鼻科の医師が患者の気管を切開し、管を入れることもある。その後のリハビリ方法などの指導も受けた駒込病院では、コロナ治療に積極的に関わる医師、看護師が増えたという。(枝松佑樹)

重症者への対応「緻密な設定が必要」

 人工呼吸器は、様々な手術の際にも患者に麻酔をかけて使われる。だが、こうした患者の肺は基本的に正常だ。コロナの重症患者は肺炎で激しく肺が損傷し、肺が正常の人と同じように人工呼吸器を使えば、ガス交換が強すぎて、かえって肺を痛めつける。

 日本集中治療医学会の西田修理事長は「口から管を入れる技術があれば、人工呼吸器は使える。だが、コロナの重症患者には、肺の状態にあわせた緻密(ちみつ)な設定が必要だ。それができなければ、延命はできても助けられない」と話す。

 米医師会雑誌で報告された調…

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