1年越しの空へ 愛知総合工科高が鳥人間コンテストに初出場

松山紫乃
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 手づくりの飛行機で空を飛び距離を競う「鳥人間コンテスト」。昨年は新型コロナウイルスの影響で選考途中に中止を伝えられた愛知県立愛知総合工科高校(名古屋市千種区)が今夏、1年越しの初出場を果たした。出られなかった先輩たちの思いも抱き、生徒たちは大空を舞った。

 「3、2、1、ゴー!」

 パイロットを務める専攻科2年の宮崎倫人(ともひと)さん(20)のかけ声で、機体「コノウエ300M」が7月末に琵琶湖の上空を飛んだ。

 飛行機は海面近くを飛ぶほど速度が上がる。しかしコノウエ300Mは尾翼が製作過程で重くなってしまい、宮崎さんが重心を前にして降下させようとしても機体の高度がなかなか下がらなかった。

 速度は予想通りには出なかったものの、機体は安定してまっすぐ飛んだ。離陸後、すぐに海面に落下する機体もあるなかで、初出場ながら153・73メートルという記録を残した。

 出場にこぎ着けるまでは一筋縄ではいかなかった。

 コンテストの数日前、教室ではチームメンバーのうち約15人が集まり、作業に取り組んでいた。「そこ、しっかりくっつけといて」「これ、切っておくよ」。機体の重心測定の際に骨組みのフレームが曲がってしまったコックピットのつくり替え作業が続く。チームリーダーで専攻科2年の村田楓季(ふうき)さん(19)は「実はまだ完成度は40~50%ほど」と苦笑いしていた。

 学校には高校3年間にあたる本科と、卒業生らが通う2年制の専攻科がある。グライダー製作は授業の一環だ。専攻科の10人と本科の16人に加え、日常的に連携して一緒に授業を受けている県立名古屋聾(ろう)学校の生徒6人の計32人が、共同で機体をつくっている。

 例年夏に琵琶湖で開かれる鳥人間コンテストのルールには「機体は自作による人力飛行機」とある。滑空機と人力プロペラ機の2部門にわかれており、滑空機部門に挑戦した。

 大学生の出場者が多いなか、高校生の出場は珍しい。昨年は春の書類選考の段階でコロナのため中止が決定。お蔵入りとなった機体を発表する機会として、冬には県内の公園で試験飛行に挑んだが、途中で両翼が損傷し、機体が宙に浮くことはなかった。

 その反省から、今年の機体「コノウエ300M」は軽量化を図った。昨年の機体でパイロットを含め110キロあった重量を90キロまで減らし、翼の面積を広げて揚力を増やした。機体は全長6・35メートル、全幅23・6メートル。目標の飛行距離300メートルを名前に込めた。

 パイロットの宮崎さんは、上空で機体を制御するためのトレーニングと、機体全体の軽量化のために食事制限に取り組み、4キロの減量に成功。「大好きなラーメンも控え、外食でもサラダメインで食べていました」。村田さんは、昨年出場がかなわず今年の製作も手伝いに来てくれた先輩たちに思いを寄せ、「先輩から『コノウエが飛ぶ姿が見たい』と言われたら絶対に飛ばさないと。気合が入ります」と意気込んでいた。

 迎えた大会当日。コロナ禍の影響で参加者を絞らなければならず、チームからは17人の生徒が会場入りした。前日の試験飛行では、熱さで羽のフィルムが縮み、飛行直前まで作業に追われた。直前の出場者にトラブルがあり、プラットホームの手前で40キロ以上ある機体を2~3人で40分ほど持ち続けるという予想外の出来事もあった。

 それでも、「プラットホームから初めてみた琵琶湖がきれいで感動した」と宮崎さん。村田さんは「自分たちがつくった機体が実際に飛んだのを見たときは涙が出そうになった」と振り返る。

 結果は目標にしていた飛行距離の半分だったが、「想像していたよりまっすぐに飛び、数字よりもやりきった気持ちの方が強かった」と村田さん。「普通に生活していたらできないことを経験できた」

 課題も見つかった。強度がどの程度必要かわからず補強を続けた結果、尾翼が重くなり機体が落ちず、海面近くを飛ばすことができなかった。設計自体も局所的に弱い部分があり、組み立てるたびに何度も別の部位が壊れてしまった。

 「来年以降の課題として後輩には進化につなげてもらえたら」と宮崎さんは話す。来年こそは、名前の通り、「300メートル」を達成してほしいと思いを託した。(松山紫乃)

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