生命保険の勧誘時に「公的保障の説明を」 金融庁が規制強化へ

小出大貴、柴田秀並

 生命保険を販売するうえでは、万が一の際に年金や医療保険などの公的保障がどのくらい受け取れるかを十分説明すべきだ――。生命保険の営業手法に関する監督指針に、こんな「異例」の注文をつけることを金融庁が考えている。本来は公助で保障されるのに、不安をあおられて加入するといった過剰契約を防ぐねらいだ。指針に明記することで、生保各社の販売手法に目を光らせる。

 保険会社向けの監督指針を近く改正する。「(販売の際に)公的年金の受け取り試算額などの公的保険制度について情報提供を適切に行う」といった規定を盛り込む方針。これまでは公的保障の説明を求める規定はなかったが、改正後は、公的な年金や医療保険について顧客への説明が不十分な場合、行政処分を受ける可能性も出てくる。

 そもそも民間が販売する生命保険は、公的保険を補完する位置づけだ。保険料控除という形で、加入者の税負担が軽減されるのもそのためだ。だが、年金・医療・雇用などの公的な備えでどの程度のお金が受け取れるかをしっかりと説明せず、保険を売るケースが少なくないと金融庁はみる。

不安あおるセールストークも

 高齢化が進んで老後の生活に対する心配が高まるなか、生保業界は貯蓄性の保険や医療保険などの販売に力を入れている。現場では「社会保障には頼れない」「年金はもらえなくなる」といった不安をあおるセールストークも横行しがち。その結果、過剰な保障ともいうべき契約が生まれやすい状況にある。

 生保会社は公的保障の説明資料などを用意しているのが一般的だ。最大手の日本生命保険は、年金商品の営業向けに公的保険を説明する複数の資料を用意する。「老後に必要なお金は準備できていますか?」という表題の資料では、年収や職業別の公的年金受取額を五つの例で記している。年収550万円の会社員が受け取る額は「月約16・1万円」で、現役時の想定月収「35・3万円」から減ると伝えている。

 同様の資料はほかの会社にもあり、代理店や銀行窓口での販売でも使われる。ただ、大手生保の幹部は「現場で実際にどこまで説明しているかは、ばらつきがあるだろう」と話す。

 老齢年金障害年金遺族年金などがある公的年金や職業や年齢によって制度が異なる公的医療保険は、種類と制度が複雑で、消費者にわかりにくい。制度に関する理解が広がらないことも不安をあおる販売手法が生まれる一因となっている。

 生保業界には「公的保障の説明は義務ではない。我々がそこまでしなければならないのか」(大手関係者)との戸惑いもあるが、各社はもう一歩顧客の立場に立った対応を迫られそうだ。金融庁幹部は「販売現場の実態把握のためのモニタリングも今後強化する」と話す。(小出大貴、柴田秀並)