息子3人が公立小中高から東大へ 母が語る「節約教育」

聞き手・高浜行人

 3人の息子が全員、地元の公立小中高を経て東大に進学した女性がいます。千葉県船橋市の杉政光子さん(64)。子どもたちは自ら勉強し、教育費は最小限ですんだとのこと。どんな子育てをしたのでしょうか。詳しく聞いてみました。

 ――3人のお子さんの進路は。

 いずれも地元の公立小中学校から県立千葉高校に進みました。今は3人とも30代で、長男は1浪して文科Ⅰ類、次男は現役で文科Ⅱ類、三男は1浪して理科Ⅱ類に進学しました。いまは学習塾経営者や公務員、会社員として働いています。

 ――教育費はどのくらいかかりましたか。

 夫(67)は中堅私立大を出て、中小製造業者の役員をしていました。私は地方公立大出身の主婦。家計にあまり余裕はありません。最初から私立中学という選択はありませんでした。小学校では長男が行きたがっても塾には入れませんでした。

予備校は? 使った教材は?

 大学受験のときには、長男と次男が月5千円ずつのZ会の通信教育を利用しました。浪人時には大手予備校に行きましたが、模試の成績で学費が免除される制度を利用しました。市販の教材は次男や三男も同じものを使ったので総額でも2万円程度。あとは予備校の短期講習で33万円。かかった費用はそのぐらいです。

 ――なぜ東大に行けたと思いますか。

 知的好奇心が旺盛な子に育ったことが大きいと思います。まず、みんな本が大好きでした。0歳から毎日、絵本を読み聞かせていたことが大きかったかもしれません。長男が1歳になったときには動物や昆虫などたくさんの図鑑を買いました。

 小学校に上がり、伝記や歴史漫画などをたくさん買い、本棚も増やしました。子どもは何度も繰り返して読んでいました。特に長男は「知ること」が大好きになり、本人が言うには「何か知識を得ると脳が興奮して喜ぶようになった」とのことです。

小学生のころ使っていた問題集は

 小学校高学年になると塾に行っている友達の影響もあって自ら取り組むようになりました。使ったのは、「段階別新問題集」という、問題が三つのレベルにわかれた算数の教材です。次男や三男は兄の影響が大きく、同じ教材で勉強していました。長男も指導してくれました。

 ――本だけでそこまで勉強好きに?

 実体験も意識していました。図鑑に出てきた生き物の実物を見せるため、田んぼや公園、動物園に連れて行ったり、キャンプに行ったり。宇宙図鑑をよく読んでいたら望遠鏡を買い、植物に興味を持ったら庭木売り場に行きました。

セミ捕りも川遊びも

 子どもをよく観察して、興味を持つものがあったら実際に体験させるようにしていました。私が田舎育ちなので、セミを捕まえたり川で泳いだり、一緒に楽しみました。私はもともと、「こうするといいんじゃないか」と思いつくと、やらずにいられないんです。

 ――勉強はすべて、子どもが自発的に取り組んだのでしょうか。

 低学年のころから、午後6時からの1時間弱は学校の宿題をする時間と決めていました。この時間には勉強しないと落ち着かない、というぐらい習慣になりました。問題集で勉強し始めてからは、それ以外の時間にも夢中で問題集に取り組むようになり、終わると「もっとやりたい」と言うので次のを買ってくる、という感じでした。

 もともと東大に行かせたいと思っていたわけではなくて、早く一人で自立して生きられるようにと思っただけなんです。勉強はその一部でした。

小学校低学年のうちに学習習慣、以降は少しずつ距離も

 ――小学校の頃に学習習慣ができたのがよかった、ということでしょうか。

 うちの場合、周囲に東大を目指す子が多い高校に行けて、良い影響を受けたのが大きかった。上位の公立高校に行くには中1のころから定期テストでよい点数をとらなくてはならないことを考えると、小学校の頃からしっかり勉強していなかったら、さすがに東大は厳しかったのでは、と思います。

 中学以上になると、親の言うことに反発しやすくなるということもあります。助言を受け入れてもらいやすい小学校低学年のうちに学習習慣をつけるのも重要ですね。

 ――大きくなるにつれ、アドバイスするときに注意したことはありますか。

 強制はしないようにしていました。子どもが興味を示したタイミングを逃さず、誘導するようにしたのがよかったかもしれません。というか、そうせざるを得なかったんです。特に長男は、無理やりやらせようとするとその逆に走り出すような性格で、何とかうまくのせて、気持ちを向けてあげるしかなかった。ファミコンなどのゲームは1人30分とルールを決めましたが、早朝などにこっそりやっているのを発見しても黙認しました。私自身が眠くて、注意すると疲れるから、やめさせられなかったんです。

叱っていた時期も……

 ――我が子が相手となると、まったく強制しないのは難しい面もあります。

 そうですよね。私自身、常に思うように誘導できたわけではないので、できないからといって落ち込むことはないと思います。長男が小さい頃は友達とのトラブルも多く、そのたびに怒り、叱っていました。正直、手をあげたこともあります。教育相談の先生から「叱らないでください」と言われて、「できないです」と即答したぐらい。何度も後悔して、10歳を過ぎて落ち着いてきた頃にようやく私も覚悟ができて「もうたたかないから。叱らないからね」と宣言できました。

 ――相当な時間と手間をお子さんにかけていらっしゃいます。

 子どもが生まれたとき、10年間は真剣に向き合おうと思いました。10年間で子どもが自立できるようになれば、後は自分の趣味にも打ち込めます。それまでは頑張ろうと思ったんです。

 いまは共働きの方も多く、保育園に行かせるだけで精いっぱい、という保護者も多いと思います。私も自宅でピアノ教室を始めると忙しくなり、そんなに向き合えない時期もありました。1日5分だけでも本を読み聞かせるとか、学校や保育園での様子を少しでも聞くとか、それだけでもいいと思います。過干渉になるのもよくないので、意外とその方がうまくいくかもしれませんよ。

勉強が嫌いな中高生には

 ――勉強が嫌いなまま中高生になった子はどうすればいいと思いますか?

 親が言っても逆効果なので、塾や先生など第三者から言ってもらうのが効果的でしょうね。ただ、いまの私なら、社会で何をしたいか、給料がいくらほしいのかをまず聞くでしょう。高校を卒業して社会に出るのと、大学を卒業して出るのとでは生涯の平均収入が違うことを伝えて、後は自分で考えてもらいます。

 自戒を込めて言いたいのは、子どもは親の「作品」ではないということです。特に中高生になれば、もう親と同じ一人の人間です。「上から」ではなく、一個人として尊重しながら話をすることが大事だと思っています。(聞き手・高浜行人)

略歴

 すぎまさ・みつこ 千葉県船橋市在住。三男誕生後、自宅でピアノ教室を経営し、現在は小学生向けの塾も開く。著書に「公立小・中・高から東大に合格した3兄弟の母は何をしたのか?」(大和書房)。

取材後記

 難関国立大に行くなら、公立中学校では不利。私(41)にとってはそれが「常識」だった。記者になる前に10年近く塾講師をし、私立中高一貫校の授業進度の速さや学習量を知っていたからだ。だから「息子さんが3人とも公立小中高から東大」と聞いて、取材前は「恵まれた特殊なケースに過ぎないのでは」と思っていた。

 お話を聞いて学んだのは、子ども自らが学習意欲を持つための親のあり方だ。子が何に興味関心を抱くかを根気よく見つめ、「やってみたい」というタイミングを逃さない。一緒に体験をして親自身が楽しむ。一方で、子の成長とともにほどよく距離をとる。そうしたことが大事なのだろう。

 もちろん、ほかの親が同じようにやってうまくいくかはわからない。杉政さんもご自身の失敗談を語ってくれた。長男が友達とトラブルを起こして呼び出されたこと、そのたびにきつくしかりつけたこと。ピアノに興味を持たせようと仕向けて空振りしたこと……。

 子育ての先輩が静かな口調で語ってくださった体験談に、宿題をサボる子どもにいらだちをぶつけた我が身の未熟さが少し救われたような気になった。進学に限らず、子どもの進路や将来を見据えてどう向き合えばいいのか。いろいろと相談してみたくなった。