エルサレム=清宮涼
起業が盛んな中東イスラエルで、医療にITを活用するデジタルヘルス企業の成長が注目されている。新型コロナウイルスの感染拡大で、遠隔医療が一気に進んでいるからだ。高齢者の介護にも役立つと期待され、日本市場をめざす動きも出ている。(エルサレム=清宮涼)
きよみや・りょう エルサレム支局長、1988年生まれ。AIと倫理に関心がある。ツイッターは @kiyomiya_ryo
「コロナ下に病院に足を運ぶ必要もない。とても便利だ」
最近、風邪の症状が出たイスラエル人の知人が、興奮気味に話した。診察は自宅で、スマホのアプリを使ったビデオ通話を通じてだったそうだ。イスラエルでは国民一人一人が薬の処方情報が入ったカードを持ち、薬も近所の薬局でカードを提示して買ったという。オンラインで薬を注文し、家に届けてもらうこともできる。
拡大する自宅で使うために開発されたタイトーケア社の端末では、自分でのどの様子を調べ、リアルタイムで医師に共有することができる=2021年7月27日、イスラエル北部ネタニヤ、清宮涼撮影
イスラエルでは昨年12月以降、世界で最も早いペースで新型コロナのワクチン接種が進み、国民の6割近くが2回接種を終えた。変異株の流行で6月下旬以降、新規感染者数は増加傾向にあるものの、街中ではマスクをしないで歩く人もいる。しかし、度重なるロックダウン(都市封鎖)も経験し、今でも人々が病院に行くのを敬遠するなかでITを活用した遠隔医療が広がっている。
0~6歳の3人の子どもを持つテルアビブ在住のタリア・レデルマンさん(39)の3歳の長男は最近、夜にせきが続いた。そこで取り出したのは肺の音を調べられる手持ちサイズの端末。2年前から使い始めた、この端末で音を録音すると、データはネットを通じて医師と共有される。その夜のうちに、専用のアプリを通じて医師の診察も受け、処方箋(せん)を出してもらった。レデルマンさんは「子どもがいるので、コロナ下で病院に行って待つ必要がないのは助かった。医者と電話するまで、子どもたちは家で遊んでいられる」と話す。「すぐにせきなどがでる子どもたちにとっては便利だ」。旅行先にも機器を持っていきたいと言う。
この端末を開発したのは、イスラエルで創業したタイトーケア。端末は、耳の奥をのぞく耳鏡をつけて耳の中なども撮影でき、データはすべて医師の端末とオンラインで共有できる。聴診機能のある付属機器をつけることで肺の音を測る性能が高いため、肺に症状が出ることの多いコロナ患者の診察にも活用できるという。端末に搭載したAI(人工知能)が、過去のデータをもとに分析し、肺の音などの異常を感知できる。個人向けの端末は1台299ドル(約3万3千円)で販売。端末はイスラエルのほか、米国や欧州など15カ国で使われている。150の保健機構などと連携し、病院や診療所で導入されている。
新型コロナの対応に追われる医療現場でも遠隔医療の技術が広く利用されている。テルアビブ郊外にあるシェバ・メディカルセンターでは、タイトーケア社の機器を新型コロナで自宅療養中の患者や、院内で隔離されている患者の診断に使っている。医師と患者の接触を避けることにもつながるという。
患者だけでなく、医師同士のや…