入管庁は責任に向き合ったか 最終報告が批判される理由

伊藤和也 編集委員・北野隆一 横山翼、上地一姫

 スリランカ国籍のウィシュマ・サンダマリさん(当時33)が死亡した経緯を調査した最終報告が10日公表された。出入国在留管理庁はこれで幕引きを図り、先の国会で成立が見送られた入管法改正案の成立を再度目指したい考えだ。だが、調査の客観性や内容をめぐって、さっそく反発が広がっている。

 「人の命を預かる行政機関としての緊張感や心の込め方が不十分だった」。最終報告を公表した記者会見の冒頭、出入国在留管理庁の佐々木聖子長官は今回の問題の原因をこう語った。

 最終報告は、医療的対応に関する組織上の問題点に加え、担当職員たちに「人権意識に欠ける」発言があったことも明らかにした。

 食事の介助中にうまく飲み込めなかった様子を見て「鼻から牛乳や」と言ったり、死亡当日、処方薬の服用後ぐったりしているところに「ねえ、薬きまってる?」と話しかけたりした。調査での聞き取りに、介助の負担が重くなるなか「職員の気持ちを軽くしたかった」などと述べたという。

 体調悪化は深刻に受け止められていなかったのか。最終報告は、仮放免を狙って体調の悪さを誇張していると疑っていたことが背景にある可能性をにじませた。

 ウィシュマさんは収容当初は帰国希望だったが、2020年12月から外国人支援に取り組む人たちと面会を重ねる中で日本に残りたいと考えを変え、今年初めには仮放免を申請。以降、体調不良を訴えるようになったとされる。

 嘔吐(おうと)を繰り返したため、内科や消化器内科などを受診し、胃カメラなどの検査も行われたが、目立った異常は確認されなかった。本人の訴えを受け、職員が血圧や脈拍などを測定しても正常値であることも少なくなかった。栄養不足や腎機能障害の可能性を示す尿検査の結果もあったのに、別の収容者での経験も踏まえ、仮放免に向けたアピールだと職員の間で捉えられていたという。

 最終報告は、疑うのも「無理からぬところがある」とする有識者の意見を紹介。そのうえで、そういう場合にも医療が必要な状況を見落とすことのないようにしておく必要があったとし、そのための教育が組織として十分でなかったと認めた。

 ただ、こうした状況を踏まえても「対応が後手に回った感は否めない」と調査関係者は話す。「目の前で日に日に状態が悪くなっているので、もう少し積極的な対応ができたのではないか」(伊藤和也)

遺族代理人「死人に口なし。きわめて不公正」

 最終報告は、上川陽子法相の指示で法曹や医療の関係者ら外部有識者6人が調査に協力したとし、「有識者の指摘を採り入れた客観的かつ公平な分析に努めた」とうたっている。

 これに対し遺族代理人の高橋済弁護士は「本来調査対象となるべき者が自分で調べている『自己調査』に過ぎず、客観性に欠ける」と批判する。外部有識者はすべて入管庁の人選で、分析や結論部分も入管庁自身でまとめたものだからだ。

 ウィシュマさんと名古屋入管局で面会を重ねた支援者らは、入管庁の聴取への協力を途中から拒否した。支援団体STARTの松井保憲さん(66)は「最終報告はSTARTを悪者にして責任逃れしている」と話す。松井さんらはウィシュマさんに「すでに病気なのだから、病院で診察を受ければ仮放免申請ができる」と伝えたが、入管側は、支援者が「病気になれば仮放免になる」などと詐病を勧めたかのように認識していたという。

 また、ウィシュマさんが元交際相手の男性から暴力を受けたと訴えた点についても、男性側のみの聴取などから「必ずしもDV被害者として特別の取り扱いをすべき事案とまではいえない」と結論づけた。遺族代理人の指宿昭一弁護士は「死人に口なし。ウィシュマさんが弁明できないのに、男性の証言だけでDVの事実がないかのように判断したのはきわめて不公正だ」と批判した。

 入管庁の会見では、調査不足などをただす質問も出た。調査チームを束ねた丸山秀治・出入国管理部長は「外部有識者から全般にわたり意見をもらっており、客観性・公平性は確保されている」「本報告書の取りまとめとしては終わり」と答えた。(編集委員・北野隆一

自民、修正案ベースに改正案成立めざす考え

 衆院法務委員会の野党筆頭理事の階猛氏(立憲民主党)は、調査の最終報告について「人が亡くなった事実の重みに対し、あまりにも形式的で事務的な印象だ。今回の責任の取り方や事実の受け止めでは、また同じことが繰り返されるのではないかと感じた」と朝日新聞の取材に語った。今後、施設内の様子を記録したビデオ映像の国会への開示や、国会での審議を求めていく考えだ。

 さきの通常国会では、政府は外国人の収容長期化を解消するため、出入国管理法改正案を出したが、ウィシュマさんの問題に絡み、入管庁の対応に批判が集中。成立を断念した経緯がある。政府・与党は来年の通常国会で改正を目指す考えだ。自民と立憲が実務者協議で合意しかけた修正協議の内容を反映させる案が検討されている。

 自民幹部は10日、「対決法案でない」として、修正協議をベースに改正案の成立を目指す考えを示した。

 しかし、立憲の福山哲郎幹事長は10日の記者会見で「日本の入管行政を根本的に考え直さなければならない」と強調。階氏も「修正協議案のままとはならない」との認識を示した。(横山翼、上地一姫)