「海外は上げた」と最賃引き上げ促す政府 議論大詰め

山本恭介
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 どこまで今年は最低賃金を引き上げるのか。その目安を決める議論が7月中旬の決着をめざし、大詰めを迎えている。政府は、最低賃金をコロナ禍でも引き上げた海外の例を持ち出して引き上げに意欲的だ。ただ国同士では単純に比べられないもどかしさもある。

 日本の最低賃金の全国加重平均は現在902円。厚生労働省の中央審議会が今年の引き上げ幅の目安を議論中だ。ここで決まる目安を参考に地方審議会が都道府県ごとの引き上げ幅を決め、10月ごろから新たな最低賃金になる。今年はコロナ禍を理由に、経営者側が引き上げに抵抗している。

 政府は今年6月に閣議決定した骨太の方針で、最低賃金は早期に「全国加重平均1千円」をめざすと表明。根拠の一つに「感染症下でも最低賃金を引き上げてきた諸外国の取り組み」を挙げた。経済財政諮問会議の民間議員も日本の水準を「国際的に見て低い」と指摘し、引き上げを求めた。

 最低賃金は、国によって物価水準が違うため、単純に金額を比べても生活実感とずれてしまう。そこでよく使われるのが、経済協力開発機構(OECD)の統計だ。その国にいるフルタイム労働者の賃金データの順位の真ん中に位置する「中央値」に対し、最低賃金の金額が占める割合だ。この割合が低いほど、政府が低賃金での労働を許容している、ともいえる。

 2019年の統計では、日本の割合は44%だった。日本より低いのはチェコ、エストニア(43%)、アイルランド(42%)、米国(32%)などだった。

 日本より高いのはフランス(61%)、イギリス(55%)、豪州(54%)、カナダ(51%)などだった。

 日本では昨年、コロナ禍の雇用への影響を心配し、中央審議会が「現行水準の維持」と答申した。その結果、最低賃金の上昇率は0・1%にとどまった。

 だが海外をみると、日本より上昇率が高い国がみられた。厚労省によると、イギリスは予想物価上昇率に少し上乗せし、前年より2・2%上げた。フランスは政府裁量による上乗せを見送ったが、賃金上昇率との連動で0・99%上げた。

 ドイツは今後の経済回復を見据え、1・6%上げた。韓国では労使協議がもめたものの、最終的に1・5%引き上げた。ただ、各国とも例年より引き上げ幅は小さかったという。

 日本は最低賃金の引き上げをデフレ脱却策の一つに位置づけ、安倍政権のころから積極的に取り組んできた。今回、各国に後れず、引き上げの流れを取り戻したいという狙いがのぞく。

 大和総研の神田慶司・シニアエコノミストも、最低賃金の引き上げを支持する立場だ。ただし、足元では「欧米の引き上げの流れを、単純に日本に当てはめてよいのか慎重に検討するべきだ」と指摘する。

 日本の特徴として、パートタイム労働者の賃金がフルタイムよりも低い賃金格差が問題視されている。そして働き手のなかにパートが占める比率が特に高いのが、コロナ禍で打撃を受けている宿泊・飲食業だ。このため、最低賃金の引き上げを急ぐと、宿泊・飲食業で人件費の負担が増し、短期的には雇用そのものが危うくなりかねないという。

 また、神田氏は「全国加重平均1千円」と絶対額を示す日本の目標の定め方にも疑問を示す。「イギリスは『絶対額』ではなく、労働者全体の中央値の3分の2という『水準』を目標にしている。その方が景気に連動し、企業も対応しやすい。海外を参考にするなら、そういう議論にもいかしていくべきだ」と話す。(山本恭介)

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