大学このままじゃあかん 総長選最下位候補が残した爪痕

狩野浩平

 5月にあった大阪大学の総長選考は、教職員投票とは異なる結果が出され、学内から疑問の声があがった。その総長選考で、「インディーズ系候補」を名乗って戦った候補がいた。生命機能研究科教授の仲野徹さん(64)。「大学を変えるには総長選考から変えるべきだ」と訴え、敗れた。昨今の国立大は学長の話題で何かと騒がしい。仲野さん、伝えたかったことは何ですか?

「総合的に判断」 不透明さを指摘された総長選考

 ――総長選の不透明性を批判し、活動は徹底的にインターネットで公開しました。総長選ではどんなことが行われるのですか。

 まるでムラ社会の選挙戦です。候補者や支持者が「有権者」のいる研究室や学部を訪ねるというのが一般的な選挙運動で、中で何を話しているかはわかりません。

 閉鎖的な対話では、個人や学部にとって利益になる要望ばかりが出るでしょう。でもひもじい今の大学にすべてをかなえることはできない。実現できなければうそつきといわれて信頼関係が失われる。これでは全体を俯瞰(ふかん)した大学運営はできません。

 通常、候補の所信表明は学内の人間しか見られませんが、私はホームページで公開しました。学内の女性研究者の会から懇談会を要請されたときは、公開することを条件として受け、オンラインで誰もが見られる状態で行いました。

《5月25日にあった総長選考は、現職の西尾章治郎氏(69)、澤芳樹氏(66)、仲野氏の3人が候補だった。「学内意向調査」と呼ばれる教授や幹部職員の投票の後、学内外の委員で構成する選考会議が投票で次期総長を決定する。教職員投票の結果は、1位の澤氏が346票、西尾氏が263票、仲野氏が98票だった。だが、選考会議の投票では西尾氏が6票、澤氏が5票と逆転。西尾氏の2025年までの再任が決まった。》

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阪大総長選の流れ

 ――選考会議は教職員投票と異なる結論を出しました。

 前提として、私はルールにのっとって戦ったので、その結果に文句はありません。総長は選考会議が決めることになっているので、教職員の意向と違う人を選ぶことも選考会議の権利です。

 しかしそこにはかなりの説明責任が生じます。説明しなければ不満を抱く教職員が出るのも当然です。

 教職員投票の後の選考会議はかなり長引きました。それだけの議論をしたのであれば堂々と説明すべきです。この点において、選考会議は十分な職責を果たしていないといわざるを得ません。

現職に有利な制度 学生の投票やってもいいのでは?

《選考会議後の会見では、教職員投票と選考会議の結果の「ねじれ」について質問が相次いだ。選考会議の鈴木直議長(公益財団法人地球環境センター理事長)は「総合的に判断した」と述べるにとどめた。阪大の複数の教職員によると、6月に入って学内では選考会議に十分な説明を求める質問書や意見書が出され、100人規模の連名のものもあったという。学長選をめぐる混乱は他の国立大でも起きており、昨年には東京大や筑波大であった学長選考が不透明だと批判された。》

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選考会議後の記者会見=大阪大学提供

 ――国立大の学長は教員の選挙で選ばれていましたが、2004年に国立大が独立法人化されると選考会議に権限が移り、教職員投票は学内の「意向調査」という位置づけになりました。

 大学でもポピュリズムみたいなことがあって、聞こえは良いけれども実現性が疑わしいことを言う候補もいます。経営手腕に欠ける総長が生まれるのを抑止する一つの手段なのだと思います。

 ただ、現在の制度は現職に圧倒的に有利にできています。選考会議の委員は、現職が指名や任命に関わっている学内委員の中からも選ばれます。選考会議は独立しているという建前ですが、候補者としては不公平感が募ります。現職が再選を目指すケースを想定していなかった制度設計なのでは、と思うほどです。

 今回、選考会議は現職を選びました。ならばなおさら説明責任を果たすべきです。阪大は二言目には「開かれた大学」と言いますが、それは自分で言うことちゃうやろと思います。言いたがるのは、開かれていないことの裏返しではないでしょうか。

 教授の投票に実権はなくなりました。であれば、准教授や講師、事務職や非常勤講師に加え、学生の投票を行ってもいいと思います。大学の方向性について構成員から幅広い意見を聞くのは、総長選考の時しかできないからです。

インディーズ系候補宣言 「外野席」からは大きな反響

 ――4月中旬に「インディーズ系候補宣言」をし、教職員投票まで毎日ホームページを更新しました。結果は最下位(得票率13・8%)でした。

 2割ぐらいはいくかなと思っていたので少し残念です。でも学部や役員の支援を受けるのが当たり前の総長選で、組織の後押しがなくても30人の推薦を受け、戦えた。元々の目的は問題提起だったので、本音では選ばれなくて少しほっとしているぐらいです。

 外野席、つまり阪大以外の大学関係者からは大きな反響があり、「なんとかせなあかん」という声をたくさんいただきました。西アフリカ・マリ出身の学長として注目されているウスビ・サコ先生(京都精華大)との公開対談もできました。話は学長選びから大学のあり方、知のとらえ方にまで及び、実に勉強になりました。

お金かけずに変えられることある 出でよ、変化を起こす人

《国立大学では独立法人化後、学長のリーダーシップが重要だとされてきた。しかし近年は学長の不祥事が相次いでいる。20年には、北海道大の前総長が部下を過度にしかるなどの不適切行為を繰り返したとして、文部科学相に解任された。今年は、旭川医科大の学長が新型コロナ患者受け入れを巡る不適切発言などを指摘され、文科相に辞表を提出した。国は5月に国立大学法人法を改正し、選考会議の権限を強化することで学長を監視させる考えだ。大学はどこへ向かうのか。》

 ――爪痕を残せたと思いますか。

 どうでしょう。大学の人間は変化を嫌います。自分の研究をしていた方が楽だし、意見を言えば「お前がやれよ」となって面倒です。組織としての大学は、社会の先端どころか周回遅れの状況です。

 私も以前は「このままほっといたらあかん」と思いつつ、「誰かがなんかやれよ」という気持ちでした。研究生活を引退し、家の裏の畑を耕して暮らそうかと思っていましたが、今回は阪大が変わる最後の機会だと思って候補になりました。

 大学ではお金をかけずに変えられることはたくさんあります。私が訴えたのは、女性教員比率の引き上げ、学部を越えた知の共有、教育の充実です。教員が研究費調達に奔走するだけでなく、大学の将来を少しでも考えれば、大学はきっとよくなるはずです。

 ――どんなきっかけがあれば変わるのでしょう。

 変わろうとしない背景には、大学が情報を出さないこともあると思います。ええことか、悪すぎて隠しようがないことしか公表しない。だから社会の方も大学に興味を持つことはなく、閉ざされたまま。グレーなこともオープンにして議論し、いい意味でも悪い意味でも話題にしてもらうことが必要だと思います。

 大学人は、ひとたび変わろうと思えば大きく変わることができると私は感じています。今後、同じように感じ、変化を起こす人が出てくることに期待したいです。(狩野浩平)

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「インディーズ系候補」として阪大総長選を戦った仲野徹さん=松村琢磨氏撮影(仲野教授提供)

なかの・とおる 1957年、大阪市旭区出身。大阪大医学部を卒業後、内科医を経て研究者になる。京都大勤務時は、ノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑・京都大特別教授に師事。大阪大では、生命機能研究科の研究科長も務めた。趣味は読書、へき地旅行、義太夫