絶滅危惧種のタガメ、田んぼで発見 さいたま市でなぜ

黒田早織
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 見沼田んぼで「絶滅危惧種」のタガメが見つかった――。自然繁殖か、それとも別の理由か。発見の知らせを受け、さいたま市郊外の現地に行ってみると、生き物たちの豊かなすみかが、確かに広がっていた。

 5月22日朝、田植えの準備のため薄く張られた水面に浮いたわらくずをよけると、いた。見つけた渡辺博子さん(67)は「この田んぼに12年かかわってきて初めて」。体長48~65ミリでカメムシ目コオイムシ科に属するタガメは「最大の肉食性水生昆虫」ともいわれ、自分より大きなカエルやカメなどを捕まえて食べる。

 『埼玉県レッドデータブック動物編2018』(埼玉県発行)で絶滅危惧種に指定されているタガメは、見沼田んぼでは絶滅したとされている。国も昨年、種の保存法にもとづき「国内希少野生動植物種」に指定。販売や販売目的の捕獲などを禁じる「特定第2種」となった。

 今回見つかった一角では、渡辺さんが所属するNPO法人などが無農薬のコメ作りを15年余り行ってきた。害虫はカエルやサギが食べてくれるのだという。

 渡辺さんに促されて田んぼに目を凝らした。ミジンコ、丸く膨れたヌマガエルのオタマジャクシ、アメンボのように水上を素早く走るハシリグモ、跳び回るあまたのカエル――。あぜ道の草にはクモの抜け殻があった。

 「田んぼはお米を作るためだけの所じゃない。生き物を育む場でもある。タガメの発見はここの生物多様性が証明されたということかもしれない」。渡辺さんは、そう考える。

 専門家はどうみるか。レッドデータブックなどの執筆を行うNPO法人埼玉県絶滅危惧動物種調査団の碓井徹代表に写真を見てもらうと、「確かにタガメ」としたうえで、「自然繁殖の個体とは考えにくい」という答えが返ってきた。

 碓井代表によると、1960年代以降、見沼田んぼ周辺を含む大宮台地ではタガメの記録は皆無。「長期間見つかっていない以上、自然分布しているのだとすればきわめて不自然」とし、ペットとして飼われていたものが逃げたり逃がされたりした可能性もあると指摘する。

 自然に繁殖したとは考えにくい場所で発見されたとの報告は、これまでにも度々寄せられているという。タガメの保全には、すみかになる水田や池沼の確保と水質保全に加え、「強い光の街灯を減らして死ぬ危険性のある街に寄せつけないようにするなど、様々な要素が必要」なのだという。

 渡辺さんが見つけたタガメはいったん水槽に保管されたが、翌日、自ら水槽を飛び出して田んぼに帰っていった。(黒田早織)

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