世界遺産の法隆寺(奈良県斑鳩(いかるが)町)で、1949年の火災で焼損した金堂壁画が11月の11日間、境内の収蔵庫で限定公開されることが決まった。金堂壁画保存活用委員会(委員長=有賀祥隆(よしたか)・東京芸術大客員教授)が3日発表した。将来の一般公開に向けた第一歩となる。公開は、法隆寺の文化財保護に寄付した計500人が対象。

 金堂壁画は国重要文化財で、7世紀後半から8世紀前半に描かれたとされる。インドのアジャンター石窟や中国・敦煌(とんこう)の莫高窟(ばっこうくつ)と並び、アジア仏教美術の至宝といわれる。49年1月26日の火災で焼損。52年にできた収蔵庫で、金堂にあったときの配置のまま、焼けた壁や柱を保存した。法隆寺は2015年、文化庁と朝日新聞社の協力で保存活用委員会を作り、壁画の一般公開に向けて検討してきた。

 委員会は、昨年度にあった収蔵庫の環境調査の結果を明らかにした。11月に収蔵庫に10人が入った状態を想定し、収蔵庫のなかの温度や湿度、二酸化炭素濃度の変化などをコンピューターでシミュレーションした。

 その結果、収蔵庫に人がいない状態と比べても温度はほぼ変わらず、公開終了2カ月後に湿度も元に戻った。委員会は、限定的な公開なら壁画の劣化につながる恐れは少ないと判断した。今回の限定公開を判断材料の一つとして、収蔵庫の改修を想定しつつ、今後の一般公開を検討する。

 収蔵庫の見学は1度に10人を上限として30分おきの入れ替え制。11月10~21日(15日休み)の11日間で計500人を見込む。法隆寺は近くクラウドファンディング(CF)「A―port」で1口1万円の支援金を募り、CFの寄付者が見学できる。集まった支援金は、今後の一般公開に向けた計測機器や展示機材などの購入にあてるという。

 法隆寺住職の古谷正覚(しょうかく)管長(72)は「大変貴重な壁画なので多くの方に知っていただきたい。いにしえの昔に描かれた壁画が焼損しても残っていることを知っていただき、文化財の大切さを考えてほしい。みなさんの力で守っていただきたい」と話した。

 金堂壁画は1994年にも、93年の法隆寺の世界遺産登録や金堂修復40年を記念し、特別公開されている。(岡田匠)

金堂壁画とは

 釈迦三尊像を本尊とする法隆寺金堂の外陣の大壁4面、小壁8面の計12面に描かれた。釈迦、阿弥陀、弥勒、薬師の浄土の世界を表現している。1949年、堂内から出火し、壁画は表面の彩色をほとんど失った。文化財保護の意識が高まり、翌50年に文化財保護法が成立。55年には、火災のあった1月26日が文化財防火デーに定められた。法隆寺は焼損壁画を収蔵庫で保存する一方、67年に朝日新聞社の協力で再現模写を開始。安田靫彦や前田青邨、平山郁夫らが描き、68年に再現壁画を金堂に納めた。