夫婦同姓「不当な国家介入」 最高裁判事4人が違憲判断

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阿部峻介
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 夫婦別姓(氏)を認めない民法と戸籍法の規定について、最高裁大法廷(裁判長・大谷直人長官)は23日付の決定で、憲法に違反しない「合憲」と判断した。15人の裁判官のうち「違憲」としたのは三浦守、宮崎裕子、宇賀克也、草野耕一の4裁判官だった。決定の骨子は以下の通り。

決定主文(結論)

 (申立人の)抗告棄却

決定理由(多数意見)

 夫婦同氏制を定めた民法750条及び同条を受けて婚姻届の必要的記載事項を定めた戸籍法74条1号(以下「本件各規定」)は、憲法24条に違反しない。2015年最高裁大法廷判決以降の社会の変化や国民の意識の変化といった諸事情を踏まえても、憲法24条適合性に関する同判決の判断を変更すべきものとは認められない。

 なお、夫婦の氏についてどのような制度を採るのが立法政策として相当かという問題と、夫婦同氏制を定める現行法の規定が憲法24条に違反して無効であるか否かという憲法適合性の審査の問題とは次元を異にするものであり、この種の制度の在り方は国会で論ぜられ判断されるべき事柄にほかならない。

個別意見

①深山卓也裁判官、岡村和美裁判官、長嶺安政裁判官の共同補足意見

 夫婦同氏を婚姻の要件と捉えたとしても、本件各規定が憲法24条1項に違反すると直ちにはいえない。選択的夫婦別氏制の方が合理性を有するという意見があることも理解できるが、本件各規定が国会の立法裁量の範囲を超えるほど合理性を欠くと断ずることは困難である。法制度の合理性に関わる事情の変化いかんによっては、本件各規定が立法裁量の範囲を超えると評価されることもあり得るが、15年大法廷判決以降に生じたもろもろの事情を併せ考慮しても、憲法24条適合性に関する同判決の判断を変更すべきものとは認められない。

 もっとも、この判断は、国会において、選択的夫婦別氏制の採否を含む夫婦の氏に関する法制度の検討を行いその結論を得ることを妨げるものではなく、国民の意見や社会の状況の変化等を踏まえた真摯(しんし)な議論がされることを期待する。

②三浦守裁判官の意見

 本件各規定は夫婦同氏を婚姻の要件としているが、現実の社会において家族のあり方が極めて多様化しており、家族の一体性や子の利益等を考慮するにしても、夫婦同氏制の例外をおよそ許さないことの合理性を説明できないこと、夫婦同氏制が現実に女性に対し不利益を与えており、婚姻前の氏の維持に係る利益が一層切実なものとなっていること等の事情の下では、法が夫婦別氏の選択肢を設けていないことは、憲法24条1項が保障する婚姻の自由を不合理に制約する点で、同条に違反する。

 もっとも、関係する制度について必要な立法措置が講じられていない状況で、夫婦が称する氏を記載していない婚姻届は受理できないため、原審の判断は結論において是認できる。

③宮崎裕子裁判官、宇賀克也裁判官の共同反対意見

 本件各規定は、当事者双方が、生来の氏名に関する人格的利益を喪失することなく、婚姻中かかる人格的利益を同等に享受するために、夫婦同氏とせずに婚姻することを希望する場合であっても、夫婦同氏を受け入れない限り当事者の婚姻の意思決定を法的に認めないとする制約を課す規定である。

 しかし、その制約に合理性があるとはいえず、これは、当事者の婚姻の意思決定は自由かつ平等であるべきことを求める憲法24条1項の趣旨に反する不当な国家介入に当たり、同項の趣旨に反する法律制度は、そのことのみで同条2項に違反する。

 なお、憲法24条と同様、人権尊重・平等原則という理念に基礎を置き、日本で法的拘束力を有する女子差別撤廃条約のもとで、日本が夫婦同氏の強制を改める法改正措置をとることを求める正式勧告を受けた事実は、基礎にある理念の共通性に鑑みれば、夫婦同氏制が憲法24条2項に照らして合理性を欠き、国会の立法裁量の範囲を超えるものであることを基礎付ける有力な証拠の一つである。

④草野耕一裁判官の反対意見

 選択的夫婦別氏制を導入することによって向上する国民の福利は、同制度を導入することによって減少する国民の福利よりもはるかに大きいことが明白であり、かつ、減少するいかなる福利も人権またはこれに準ずる利益とはいえない。それにもかかわらず、同制度を導入しないことは、あまりにも個人の尊厳をないがしろにする所為であり、もはや国会の立法裁量の範囲を超えるほどに合理性を欠くから、本件各規定は憲法24条に違反する。

     ◇…

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    木村草太
    (憲法学者・東京都立大学教授)
    2021年6月23日22時1分 投稿
    【解説】

     この審判で、原告らは、主として二つの主張をしていた。一つ目は、夫婦で同氏にすることに合意したカップルと、合意しないカップルとで、婚姻制度を利用できるか否かの区別が生じ、この区別の結果、戸籍を通じて関係の公証を受けること、子どもの共同親権を

    …続きを読む