パリ・メンズが22日開幕 特設サイトで全ブランド配信

ファッション

編集委員・後藤洋平
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 2022年春夏シーズンのパリ・メンズコレクションが22日に開幕する。コロナ禍で2度目となるメンズの春夏は、前シーズンに引き続きデジタル動画での発表が多くなりそうだ。それでも「ファッションの都」としてのパリの位置づけは変わらない。今回も有力ブランドが続々と参加予定だ。

 朝日新聞は主催者の「ブロードキャスティングパートナー」として、特設サイト(https://www.asahi.com/special/fashion/pfw2022ss/)で全ブランドの公式発表を同時配信する。開幕に先駆け、見どころを解説する。

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 6月のパリ・ファッションウィーク(PFW)は1日が長い。コロナ以前のファッションウィークでは、毎日午前10時から午後11時ごろまで、1日に約10ブランドの公式ランウェーショーが連日開催された。この時期のパリの日没時間は、ちょうど最後のショーが始まる頃だ。

 世界中からバイヤーやジャーナリストが集まるPFWには、一流ブランドがこぞって参加する。この構図はコロナ禍のなかで開催される現在のPFWでも同様だ。

アフリカ系初のLVデザイナーに注目

 今回の最初の大きな山は開催3日目の24日だろう。現地時間で午前11時30分(日本時間午後6時30分)にオム・プリッセ・イッセイミヤケが発表する。そして午後2時30分(同午後9時30分)にはルイ・ヴィトン(LV)が発表を控えている。

 LVのメンズデザイナーは米国人のヴァージル・アブローが務める。アフリカ系で初めて同ブランドのデザイナーに就任し、多様性や人種問題などに対するメッセージを発信し続けている。

 アブローのLV初コレクションは19年春夏シーズンだった。パリの中心地パレ・ロワイヤルの中庭に7色の長いランウェーを設営し、多くの黒人モデルを起用して披露したのは、デザイナーが創作の源とするヒップホップやストリートカルチャーが盛り込まれた作品群。アブローの親友であるミュージシャンのカニエ・ウェストや芸術家村上隆らが見守った。

 終了後、アブローは一人でランウェーを歩いたが、感情を抑えきれず、何度も涙をぬぐい、そこにウェストが駆け寄って抱擁する姿は歴史的瞬間だった。多くのファンを持つLVはあのコレクション以降、それまで縁がなかったであろう若者たちにも支持層を拡大した。

キム・ジョーンズのディオールからも目が離せない

 パリ・メンズに参加するハイブランドで、徹底的に服のつくりにこだわるのが25日午後2時30分(同午後9時30分)に発表されるディオール。メンズのデザイナーは以前LVのメンズを手がけ、19年春夏から移った英国出身のキム・ジョーンズだ。ディオールはメンズもオートクチュールメゾンの手法そのままの、最高級の素材づかいで知られる。ジョーンズのファーストコレクションは爽やかな作品の数々だった。

 LV時代に人気ストリートブランド、シュプリームと「伝説のコラボレーション」を手がけたジョーンズは、ディオールに移ってもアーティストのカウズや空山基らとの協業が大きな話題となった。そうした作品たちが美しく仕立てられて服となる。今年の秋冬には日本の人気ブランド、サカイとの協業カプセルコレクションを発表するなど、話題に事欠かないブランドだ。

 ジョーンズの大きな成功も影響してだろうか。シーズンごとの協業は現代メンズファッションの手法として一つの定石になりつつある。派手なコラボレーションではないが、毎回巧みなのは、24日午後7時(同25日午前2時)発表のドリス・ヴァン・ノッテン。秋冬ものではグランジスタイルや民族調などざっくりとしたテーマで上質なコレクションを続けるが、春夏シーズンは写真家の蜷川実花やグラフィックデザイナーのヨシロットン(ともに20年春夏)、美術家レン・ライ(21年春夏)の作品をヴァン・ノッテンならではの上品さで服に取り込んでいる。

今回も出るか?春夏ドリスの「品のあるコラボ」

 なかでも「パントン・チェア」で知られる家具・インテリアデザイナーのヴェルナー・パントンの作品をテーマにした19年春夏コレクションは、ミッドセンチュリーのテイストを現代の服に鮮やかに落とし込んでいた。美しいプリントはヴァン・ノッテンの特長の一つ。今回は、どんな服が発表されるのか楽しみだ。

上質素材のハイブランド、続々

 18年春夏からルーシーとルークのメイヤー夫妻がデザインを手がけ、最終日の27日午後2時(同午後9時)に発表されるジル・サンダーは、「生地へのこだわり」で知られるブランドだ。一貫しているのは、質感を徹底的に追求すること。ミニマルなデザインを高級既製服として成立させる王道のアプローチではなかろうか。

 素材への飽くなき追求といえば、もちろん26日午後2時(同午後9時)のエルメスもその筆頭格だ。上質なレザーやコットンを軽やかに織り交ぜる。同ブランドのメンズは、30年超にわたってヴェロニク・ニシャニアンがデザインを手がけている。以前のインタビューで「マーケティングという観点がないし、ラグジュアリーという言葉も嫌い」と語っていたことが忘れられない。

 高級素材と高いデザイン性で支持を集めるのは26日正午(同午後7時)のロエベ。コロナ禍以前のリアルなショーは、常にパリの左岸にある国連教育科学文化機関ユネスコ)の本部で開催された。常識にとらわれないシルエットと素材選びによるモダンな服。数年前に「新進」として話題になり快進撃を続ける36歳のジョナサン・アンダーソンには、ベテランの風格すら漂いだした。

日本は変わらず「アジアの雄」、デザイナーたちは?

 パリ・メンズには多数の日本ブランドも参加する。市場としては中国に押される日本だが、クリエーション面ではアジア随一のファッション先進国であることは疑いようがない。

 日本では「御三家」のうちコムデギャルソンだけはコロナ禍以降にPFWに参加せず、東京で独自のショーを開催しているが、24日午後5時30分(同25日午前0時30分)のヨウジヤマモト、イッセイミヤケ(オム・プリッセ・イッセイミヤケ)はデジタルで参加する。メゾンミハラヤスヒロやカラー、ホワイトマウンテニアリングなど実績を持つ日本勢のほか、ダブレット、ヨシオクボ、ファセッタズム、ターク、キディルなどの中堅・新興勢も引き続きの参加だ。

 ただし、PFWへの参加とはいえ、実際に日本のデザイナーは今回もパリでランウェーショーを開催するわけではない。コロナ禍によってデジタルでの発表も3シーズン目になる。

 海外志向の強い日本の若手デザイナーにとって兄貴分的な存在の三原康裕(メゾンミハラヤスヒロ)に現在の心境を聞くと、「いつも通り。私は毎日の日々を刺激的に生活したいとは思わない。『相変わらず』というか……。時代と人々だけが変化して、私はいつも同じ椅子に座っているような感じ」と返ってきた。

 一方で、これまで通常だったパリ現地での発表がなくなったことについては「驚くことだが、旅行が大嫌いな私ですら映像や写真に映るパリの景色を観て『行きたい』という感情が湧き起こった。単に毎年の習慣が途切れたことによるものだと思うが、自発的にそう思ったのは事実」と吐露した。

 また、タークの森川拓野はコロナ禍でパリでのショーが開催できなかったものの「結果的には素材開発などの技術の向上に努める期間になり、しっかりと物づくりに向き合い、自分たちらしい進路を決めることができた」と振り返る。この間、売り上げは落ちることがなく伸びたともいい、「ついてきてくれた人々には本当に感謝している。現時点では次の1月のパリ・メンズは絶対に現地に行きたい」と語った。(編集委員・後藤洋平

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