「市場」の独占防ぐ工夫、言論も同じ 国民投票CM規制

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構成・上田真由美
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 憲法改正の手続きを定める国民投票法が改正された。テレビやラジオでの賛成・反対のCMを規制すべきか、するならどう規制するのかといった課題は3年後までの「宿題」として残った。憲法が保障する「表現の自由」などを理由に、規制に反対する声もあるが、憲法学者の志田陽子・武蔵野美術大教授は表現の自由を重視するからこそ、一定の規制が必要なのだという。どういうことなのか。

――CM規制の課題は3年後までに先送りされたまま、国民投票法が改正されました

 「まず前提として、憲法は96条で改正の手続きを定めており、『改正をするとしたら』ということを織り込んでいます。ですから、憲法改正のための法律ができること自体には反対ではありません。むしろ、いま国民が参加すべき手続きが無視されて解釈と法律のレベルで実質の憲法改正が起きているのではないか、この不健全さの方が問題です」

 「その上で、憲法改正に国民が参加するときの情報共有を考えるときに、手放しの自由放任の状態はよくないと考えています」

 国民投票は憲法改正の発議後、60~180日以内に実施されることになっており、この間の国民投票運動は原則として自由。ただし、テレビとラジオで改憲案への賛成や反対を勧誘するCM放送だけは、投票の14日前から禁じられている。今回成立した改正法では、CMやインターネットの規制のあり方などについて、施行後3年を目途に検討し、必要な法制上の措置などを講じるという付則が盛り込まれた。

――CMは視聴者にとって判断材料の一つになるものです。日本民間放送連盟民放連)やメディア論の学者からは、規制は「表現の自由」や「知る権利」の侵害につながりかねないとの指摘もあります

 「『表現の自由』や『知る権利』をなぜ確保しなければならないのかというと、私たち一人一人がいろいろな見解に触れ、自分の考えをいつでも相対化できるようにするためで、これが『精神的自由』の本質だと思います。多様性を確保するということです。強い一定の見解ばかりを、繰り返しシャワーのように浴びせられれば、どうしても影響され、とらわれてしまう」

 「『表現の自由』を支える考え方として『言論の自由市場』と言われることがあります。そこで、この考えの元となっている経済の世界を見てみると、公正で自由な市場を支えるためには、独占禁止法不正競争防止法などがあります。資金の大きな強い者が市場を独占して弱い者を実質的に排除する『一人勝ち』の状態をつくることや、アンフェアな手法で勝とうとすることを規制する工夫、法律による下支えがいろいろあるのです。『言論の自由市場』についても、この事実は参考にすべきでしょう」

――賛成と反対の言論の量を「均衡」にすべきだという意味ではないと

 「はい。前提として、賛成か反対かという言論の内容を規制するようなことはあってはなりませんし、その分量をそろえるような操作もするべきではないと思います。そうではなくて、資金面で強い言論が言論空間を独占してしまい、異論や対論が言論空間から押し出されるか不可視化されてしまう、という状態がおきてはならない、ということです。すべての見解に対して、有効な発言ができる土俵を確保しなければなりません」

 「具体的には、ある特定の見解や、特定の政党のCMが独占することがないように上限を規制するという方法もあるでしょう。また、例えば、国連では経済大国も小さな島国も、一つの主権国家として対等に扱われますね。そのように、どこかに番組枠をつくって、すべての政党に同じ発言枠を与えるという方法もあるでしょう。どういう方策をとるかは国会の裁量になると思いますが、何らかの配慮は必要でしょう」

 ――賛成や反対の投票を呼びかけるCMを流せるのは、憲法改正の発議(投票日の60~180日前)から、投票日14日前までです。この間のCMが賛成・反対のどちらかだけに買い占められるのは、あまり現実的ではないようにも思えます

 「直接的な『買い』だけでな…

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