国民投票法案、メディア規制論議で憲法学者ら指摘

編集委員・藤田直央 楢崎貴司
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 憲法改正の手続きを定める国民投票法改正案が9日、参院憲法審査会で自民、公明、立憲民主、日本維新の会、国民民主の各党などの賛成多数で可決された。2018年6月の提出から3年かけ、11日の参院本会議で成立する見通し。

 改正案は、安倍政権下に提出された。一般選挙の手続きを定める公職選挙法の規定に合わせる内容で、駅の構内やショッピングセンターなど大型商業施設に共通投票所を設置できることや、投票所に入場できる子どもの対象年齢を広げるなど7項目からなる。

 立憲などは、安倍政権のもとで改憲への環境が整うことを懸念し、改正案の審議に応じない姿勢を崩さず、8国会にもわたって継続審議となっていた。

 しかし、安倍晋三前首相が退陣し、憲法改正にあまり積極的でない菅義偉首相が就任。立憲はもともと改正の中身には反対でないことや、「野党共闘」をめざす国民民主が賛成に回ったことなどから、これ以上審議に応じない姿勢をとることは難しいと判断。昨年12月の臨時国会で、自民の二階俊博、立憲の福山哲郎両幹事長が、この通常国会で「何らかの結論を得る」ことで合意した。

 衆院憲法審では先月6日、国民投票で改憲案への賛否を呼びかける運動でのCMやインターネットの規制などについて、立憲が「施行後3年を目途に必要な法制上の措置その他の措置を講ずる」とする付則を加えた修正案を提示。自民が受け入れ、今国会での成立に両党が合意した。

 参院憲法審では、「充実した審議」(自民の石井準一・与党筆頭幹事)が意識され、衆院憲法審では実施しなかった参考人質疑も行い、衆院より多くの質疑時間を確保した。維新が9日にさらなる修正を提案したが否決された。採決では、共産が反対した。

 ただ、これで憲法改正論議が進むという見通しはない。自民は「本丸」の改憲論議に入りたい構えだが、立憲はCMやインターネットの規制の議論を重視しており、温度差がある。国民投票での運動は原則自由とされていることもあり、2日の参院憲法審に参考人として臨んだ憲法学者らからは意見が相次いだ。

 近畿大の上田健介教授は世論に影響するCM・ネットへの規制に理解を示しつつ「国民投票運動は表現の自由のど真ん中の行為。できるだけ自由に」と指摘。大東文化大の浅野善治教授も「資金力で(国民の)意思がゆがめられるといった弊害を洗い出し、除去する限度で制限を」と語った。

 一方、日本弁護士連合会の憲法問題対策本部に属する弁護士の福田護氏は「賛成派、反対派のCM量の格差やネット使用による無秩序への危惧」を述べ、名古屋学院大の飯島滋明教授は、SNSの個人情報が米大統領選に流用された件に触れ、「そんな影響を国民投票が受けるかもしれない」と強調。ともに、CM・ネット規制が整うまで国会は改憲発議をすべきでないとの考えを示した。(編集委員・藤田直央、楢崎貴司)

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