「福井モデル」成功の影 戻らぬ客に繁華街から「地獄」

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小田健司
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 感染者を低い水準に抑え、新型コロナウイルス対策の成功例として注目される「福井モデル」。モデルには「GoToイート」再開などの経済対策も盛り込まれているが、福井市の繁華街に人は戻っていない。店主らは悲痛だ。感染が少ないだけに見向きもされない――。

 「感染者が少ないから問題がないと思っているなら、大間違いです」

 JR福井駅から歩いて10分ほど。福井市の繁華街・片町にある居酒屋「ひっぱり凧」の大将、宮川豊さん(46)は語気を強めた。

 カウンター席に座ると、目の前のネタケースは空っぽ。以前は鮮魚などが入っていたという。「生ものは仕入れられません。空にして電気を切っておけば、節約にもなります」

 店は地元の人や、東京などから来る出張のサラリーマンらに親しまれ、6月に21年目に入った。コロナ前に比べると売り上げは6~7割ほど減っているが、営業日を減らすなどして開けている。

 けれど、街に人は戻っていない。「開けるも地獄、閉めるも地獄」と宮川さん。

 東京など緊急事態宣言下の時短や休業の要請なら、中小企業は売上高に応じ1日4万~10万円、大企業は売上高の減少額に応じ1日最大20万円を受けられる。だが、感染が広がっていない福井では、収入の柱になるような支援はない。昨年は持続化給付金の支給も受けたが、1年で貯金も尽きた。県外の大学院と大学に通う2人の息子がいるという。

 ニュースを見ると、モヤモヤした気持ちになることもある。

 コロナ対策として菅義偉首相も関心を示したという「福井モデル」。杉本達治知事も盛んにPRしている。そのモデルには、飲食店向けの「GoToイート」再開など、経済対策も含まれている。しかし、宮川さんは効果を実感できないという。

 「閉鎖的な土地柄で、人の目を気にしてか、外食するような雰囲気になっていない。もともと外食しない人が多い印象ですが、コロナが拍車をかけています」

 宮川さんは「酒屋の注文もなくなっている」と言う。片町で探して、見つけたのが「酒のやまぎし」。比較的高価な日本酒や洋酒、そして陶器も取り扱う老舗だ。

 夫とともに店を守る山岸峰子さんによれば、昨年春以降、徐々に売り上げが落ち、「今は店を開けていても客は来ない。売り上げがほとんどない日もある」。スナックや居酒屋などからの注文が途絶えたからだ。

 閉店を考えることは? 山岸さんは答えた。

 「ちらほら話していますよ」

     ◇

店に届いた段ボールにスナックママ「納得いかない」

 近くのショットバー「ル・クラブ」の経営も深刻だ。訪れた5月下旬の夜、マスターの中屋富史男さん(66)のスマホ行政書士から連絡があった。国の一時支援金が問題なく支給されそうだという内容だ。コロナで売り上げは半分以下に。昨年は持続化給付金と政府系金融機関からの融資を受けたという。

 高校卒業後、バーテンダーの道に進み、今の店では30年以上、客をもてなしてきた。オイルショック、バブル崩壊、リーマン・ショックなど、街を襲う「危機」をカウンターの中から眺めてきた。

 「コロナショックが一番影響…

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