通信制高校から東大や海外大へ? 人気のわけは

変わる進学

編集委員・宮坂麻子

 少子化の中、通信制高校の人気が高まっている。昨年5月時点の生徒数は初めて20万人を超え、今年度はさらに増えそうだ。新しい教育に挑戦する通信制高校も出てきている。(編集委員・宮坂麻子

 角川ドワンゴ学園の広域通信制高校「N高校」(沖縄県うるま市)では今春、約4300人が卒業した。

 開校した2016年4月に約1500人だった在籍生は、昨年12月には約1万7千人まで増加。約8割がオンラインで学ぶ「ネットコース」に在籍し、全体の5割弱が首都圏の生徒だ。

 プログラミングや職業に直結する教育で注目されるが、オンラインの学習指導もあり、大学合格実績も年々伸ばす。昨年度実施の入試では、東京大4人(推薦入試1人含む)、筑波大5人、京都大・大阪大各1人など国公立大に計57人が合格。医学部医学科は8人、早稲田・慶応・上智・東京理科大に計43人で、海外大36校にも合格者が出た。

東大進学の学生、すき間時間に読書や料理

 ネットコースから東大理Ⅱに進学した、都内の女子学生は「時間を自由に使えたことが良かった」と振り返る。有名私立中高一貫校に通っていた高1の夏、カナダの高校に1年間留学。帰国後、「ただ聞いているだけ」の日本の授業に魅力を感じられなくなり、N高に転学した。単位取得に必要な授業視聴やリポート提出は早めに終わらせ、ほかの時間は、高3の前半までは読書や料理などに、夏以降は受験勉強にあてたという。

 N高入学者の約8割は3年間で卒業する。その進路は様々で、難関大に進学する人は一部だ。今年4月に修正発表した進学実績をみると、大学などへの進学は25%、専門学校ほかが27%、浪人11%、就職11%、アルバイトなど12%、進路未定者13%だった。角川ドワンゴ学園の夏野剛理事は「大学だけが進路とは考えていない。それぞれの生徒の目標を応援する」と話す。

VR活用し学習、海外大進学プログラムも

 生徒増を受け、同学園は今春、茨城県つくば市に2校目のS高校を開校した。N高とS高の5月時点の在籍者は計約2万人に。両校に、仮想現実(VR)を駆使する「普通科プレミアム」や、対面でグループワークを繰り返す「オンライン通学コース」ができた。海外大進学プログラムも始まっている。

 岩手県の女子生徒は中高一貫校に通っていたが、夢をかなえられる道として、S高の普通科プレミアムを選んだ。中2の秋、自治体の海外派遣でオーストリアに2週間短期留学した。午後2時ごろに帰宅した後は、音楽など好きなことを満喫する生徒の姿に驚いた。自身は、韓流ドラマの影響で韓国語を勉強中で、中国語も学びたい。「学校の勉強だけに追われず、自由な時間があるのが一番のメリット。VRで苦手な教科もわかりやすくなるかも」と期待する。海外大進学をめざすという。

データサイエンティスト・内部進学…多様な進路選択

 岡山市には今春、ワオ未来学園「ワオ高校」が開校した。能開センターなど全国で進学塾を展開するワオ・コーポレーション(大阪市)が作る広域通信制高校単位制)だ。

 独自の必修科目「教養探究」で、哲学・科学・経済を通じて、実社会に必要な教養を学ぶ。授業は映像を見てSNSで意見交換し、オンラインで議論する。海外大学をめざしたり、データサイエンティストや起業家を志したりする人向けの選択プログラムもある。1学年400人で、首都圏からは高校留学に期待しての入学が多いという。

 河本尚教頭は「社会が変容する中で、難関大をめざす価値観だけでは対応できない。デジタル化、グローバル化はもちろん、新しい未来を見据えて、一人ひとりにあった教育をしたい」と意気込む。

 土浦日大高校(茨城県土浦市)も、4月に広域通信制課程を設けた。内部推薦による日大への進学も可能だ。担当者は「高校途中の転編入者も受け入れて、大学進学を見据えた教育をする」と話す。

初の20万人超え 教育の質向上に課題も

 文部科学省学校基本調査によると、昨年5月時点で通信制高校に在籍する生徒は20万6948人で、調査を始めた1948年以降で初めて20万人を超えた。高校生総数が前年比で約7万6千人減ったにもかかわらず、通信制の在籍生は前年比で約1万人増えておりその人気がうかがえる。

 在籍生の7割以上は私立高校生だ。都道府県別の通信制高校に在籍する私立生は、沖縄県が約2万1千人と最多で、北海道(約1万9千人)、大阪(約1万5千人)、茨城(約1万4千人)が続く。首都圏の生徒も多く、東京約9千人、千葉約7千人、埼玉約2千人、神奈川約1千人となっている。

 校数も増えている。90年に公立と私立を合わせて84校だったが、2005年には175校、2010年には209校と増え、2020年は257校に。通信制のみの独立校は前年より4校多い117校(公立7、私立110)。全日制などとの併置校は、前年と同じ140校(公立71、私立69)となった。

 通信制高校の人気の理由について、安田教育研究所の安田理代表は「生徒の求めるものが、多様になったことが大きい。スポーツや音楽、ダンスなど勉強以外のことに打ち込んだり、起業やプログラミングなど実社会とのつながりを求めたりしたい生徒も少なくない」とみる。

 自由に時間が使えて、友達関係や先生からも縛られずに、高校卒業資格が得られる点で、通信制は現代のニーズに合うと指摘する。「以前は通信制は最後の選択だったが、最近は最初から第1志望にする生徒も少なくないと聞く。通信制高校では不足しがちなリアルな人間関係構築や、関心や視野を広げることもぜひして欲しい」と話す

 一方で、通信制高校を巡っては、ずさんな運営を指摘されている学校もある。文科省の調査では、生徒のアルバイトを特別活動にしたり、サポート校などで教員1人が100人以上を面接したりした例もあった。そのため同省は今年3月、通信制高校の教育の質の確保、向上に向け、指導計画や設置基準強化などの改正とガイドラインの改訂を行った。(変わる進学)