第3回米との戦力差、台湾で「逆転」か 統一へ攻勢かける中国

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 「最近の日本は下心を持って『中国の軍事的脅威』をあおり立てている。台湾問題で日本がすべきことは、軍国主義の歴史に向き合い深く反省することだ。身のほどをわきまえよ」

 5月27日の中国国防省オンライン会見。日本防衛省が今夏にもまとめる防衛白書の素案に「台湾情勢の安定は日本の安全保障や国際社会の安定に重要」と明記されたことを、譚克非報道官は強い口調で非難した。

 日本や米国から見れば台湾海峡の緊張を高めているのは中国だが、中国には台湾への関与を強める日米の動きは内政干渉に映る。こうした米国などの影響力をいかに排除するかは、中国の長年の課題であった。

連載「台湾海峡『危機』のシナリオ」(全7回)

米国と中国の対立が先鋭化し、中国が台湾への圧力を強めています。台湾をめぐる日米中などの動きや思惑を描く全7回の連載です。3回目では中国の

 台湾は第2次世界大戦の日本降伏を受けて、当時の中華民国に属した。1949年、国民党との内戦に勝利した共産党により中華人民共和国が成立。国家指導者となった毛沢東氏は、台湾に逃げ込んだ蔣介石氏率いる国民党政府に対して断続的に武力攻撃を仕掛けた。58年には台湾が実効支配していた金門島の攻略を試みたが、米国が台湾支援に動いたため成功には至らなかった。

 79年、米国は中国との国交正常化を果たす一方、台湾と断交。だが、中国による台湾占領を警戒し、「台湾関係法」を制定して武器供与などの形で台湾支援を続けた。米国が外交では中国を、安全保障では台湾をパートナーに選んだことで、台湾海峡の緊張は維持されることになった。

 中国が中台統一に向けて本格的に軍事力の増強に突き進むようになったきっかけは、95~96年の第3次台湾海峡危機だ。当時のクリントン米政権が李登輝総統に訪米ビザを発給したことに激怒した江沢民指導部は、台湾北側に向けてミサイル発射実験を実施。翌年の台湾初の直接投票による総統選挙の時期にも、大規模な軍事演習を行い、台湾の民主化に圧力をかけた。

 ところが米軍が台湾海峡へ派遣した二つの空母艦隊を前に、対艦ミサイルなどの精密打撃能力が不十分な中国はなすすべがなかった。この屈辱を機に、中国は海軍の増強や短距離ミサイルなどの開発に力を入れるようになった。現在の国防費は台湾海峡危機当時の20倍以上に膨らんでいる。

 米中の国防費にはまだ3倍以上の開きがあるが、世界へ展開する米軍に対し、中国軍は自国周辺の安全保障に集中している。「台湾周辺に限ればすでに実力は逆転した」(中国外交筋)との強気な分析もある。

過去の屈辱を「払拭」し、今では軍事的な実力を増大させた中国。その一方で平和的な統一をめざす動きもあります。ただ、民主化が進んだ台湾には、中国の統一要求はどう映るのでしょうか。記事後半では、習指導部、台湾の動きを追います。

 米国を台湾から遠ざけるため…

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    古谷浩一
    (朝日新聞論説委員=中国政治、日中)
    2021年6月8日11時52分 投稿
    【解説】

    中国共産党政権は2027年の建軍100年に向けた「奮闘目標」を掲げているが、その目標の具体的な中身については明らかにしていない。おそらく台湾への武力統一にかかわる軍事能力についての内容なのではないかと推測する。もちろん、それはあくまで能力の

    …続きを読む