いまだ国産ワクチンゼロの日本 潰れていたチャンスの芽

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野口憲太 江口英佑 編集委員・田村建二
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 日本の新型コロナウイルスワクチンの接種は世界に比べても遅れている。国産のワクチンも存在せず、海外製に頼っている状態だ。

 「単線ではなく複線で走れるようになり、ワクチン接種をスムーズに進められるようになる」

 5月20日夜。田村憲久厚労相は報道陣に囲まれ、こう話した。直前に、専門家による部会で米モデルナと英アストラゼネカの新型コロナウイルスワクチンの承認が了承された。米ファイザーに加え、新たに二つの選択肢が加わった。

 三つのワクチンはいずれも海外製だ。いま日本は、国産ワクチンを一つも手にできていない。「日本はワクチン後進国」。医療界からは、そんな自虐的な声も漏れる。

 日本では1970年ごろから、天然痘のワクチンなど予防接種後の死亡や後遺症が社会問題になり、訴訟も相次いだ。92年の東京高裁判決では、国が全面的に敗訴した。

 健康な人にうつワクチンには、高い安全性が求められる。日本では過去の経緯もあって、安全性をより強く求める傾向があり、海外に比べてワクチンへの信頼度が一般に低めだと専門家から指摘されてきた。

 新たな感染症の脅威がなければワクチンの需要は高まらず、採算性はよくない。日本では長い間、安定した需要が見込める定期接種のワクチンを、国の関与のもとで小規模なメーカーがつくる「護送船団」方式がとられてきた。

 ワクチンが主に使われる子どもが減り、市場も縮んでいる。国の支援が乏しい中で企業の開発意欲は高まらず、研究開発は進まなかった。医薬品の国内市場が約10兆円なのに対し、ワクチンはこの3%ほどの約3200億円でしかない。

 一方、海外では重症急性呼吸器症候群(SARS)やエボラ出血熱中東呼吸器症候群(MERS)など、致死率の高い感染症が次々と流行。ワクチン開発が大きな課題となった。生物兵器テロ対策として研究が進んだ経緯もあり、欧米のワクチン政策には安全保障の側面がある。

 実は日本にも、チャンスの「芽」はあった。東京大医科学研究所の石井健教授は2016年から、当時所属していた医薬基盤・健康・栄養研究所で、MERSのワクチン開発を進めていた。

 タイプは、ファイザーやモデルナが今回、開発に成功した「m(メッセンジャー)RNAワクチン」。マウスやサルを使った動物実験ではMERSに対する免疫がつくられることを確認できていた。

 だが、プロジェクトは18年…

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