レース中「前行きな」 レジェンドは負け姿もかっこいい

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こばゆりの今日も走快!

 ゴールデンウィークに陸上の日本選手権が静岡で開催されました。東京五輪の切符をかけた女子1万メートルのレースで最も印象的だったのが、福士加代子選手です。

 39歳で当たり前のようにスタートラインに立つということだけでもすごいことです。結果は2周遅れの最下位。でもその表情は、次々と自分を抜かしていく後輩たちを見守っているかのようでした。

 福士さんは長距離界の日本のエースとして世界の舞台で戦い、五輪にも2004年のアテネから4大会連続で出場してきたレジェンドです。

こばゆりの今日も走快!

陸上の中長距離選手として活躍し、五輪の舞台にも立った小林祐梨子さん(32)のコラムをスタートします。元アスリートとして、女性として、母として、現役時代の走り同様、歯切れよく語ります。

 あこがれでした。高校を卒業した後、少し髪が伸びると、福士さんの髪形をまねするほどでした。

 08年の北京五輪のあと、けがもあってうまく走れない時期が3、4年続きました。けがだけでなく、「負けるのが怖い」という思いがぬぐい去れませんでした。

 そんな状態で、12年9月の全日本実業団対抗選手権の1万メートルに出ました。1万メートルは本職ではなかったのですが、監督に勧められたのです。勝手がわからず、同じ種目に出ていた福士さんの後ろをついていきました。

 「前行きな」

 レース中盤、前を走る福士さんに突然、言われました。驚きましたが、「はい」と答えて前へ出ました。

 「いいよいいよ、その感覚」「絶対引いたらだめ」

 今度は後ろからそんな声を掛け続けてくれたのです。

 きっと、私が苦しんでいたことを知ってくれていたんだと思います。私は日本選手最高の2位に入り、福士さんは3位でした。

 面識がなくてもレース中に言葉をかけてもらったという選手は私だけではありません。そんなことをしてくれる人はほかに思い当たりません。

 「ライバルだけど、みんなで強くなろう」という考えを持っているのでしょう。

 誰かの何千文字の言葉より、福士さんの一言があればいい、と言ったらおおげさでしょうか。それくらい、言葉に力があるのです。

 新型コロナウイルスが猛威を振るい、今夏の東京五輪の開催は不透明なままです。アスリートたちの立場も複雑です。

 日本選手権を前に福士さんはきっぱりと言っていました。「五輪があるかないかわからないけど、やることは一緒」と。ああ、これが答えなのかなと思いました。

 通常、経験値が上がり、実績を残せば、プライドを持ってしまうものでしょう。

 福士さんにはそういったものにとらわれない芯を感じます。「負けたらかっこ悪い」などと余計なことは考えず、全力を出し切ることができる。

 だから、日本選手権で本来の走りができなくても、すごくかっこよかった。生き様そのものが、走りに出ていました。

 今、女子の中長距離界で活躍…

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