第5回韓国へ経済で「報復」した安倍氏 対立は防衛協力に波及

 日韓慰安婦合意から約3年。元徴用工訴訟などをめぐって日韓関係は悪化する。両国の報復・対抗措置の連鎖は、防衛協力にまでも暗い影を落としていく。

「未完の最長政権」第3部第5回

 歴史的な日韓慰安婦合意から約3年。2018年末から19年にかけて日韓関係は悪化の一途をたどった。

 韓国の最高裁にあたる韓国大法院判決(18年10月)が、戦時中に日本本土の工場に動員された朝鮮半島出身の元徴用工への損害賠償を命じたほか、韓国海軍駆逐艦が自衛隊機に火器管制レーダーを照射する事件が起きた。

 慰安婦合意では交渉の議題にもならなかった「元徴用工」問題の浮上と、韓国による福島などの水産物輸入禁止措置をめぐる世界貿易機関(WTO)で日本が逆転敗訴したことを受け、安倍官邸は韓国への不満を募らせていた。

 経緯を知る官邸関係者は「官邸は『何か、韓国への対抗策を考えろ』と各省庁に検討を指示した」と証言する。

 外務省からは、韓国からスワップ協定締結や環太平洋経済連携協定(TPP)加入の要請があっても拒否するなどの案が挙げられたが、採用されたのは、経済産業省が提案した「ホワイト国(輸出優遇対象国)からの韓国外し」だった。

 日本は19年7月、半導体材料3品目の対韓輸出規制強化を発動。8月には、輸出手続きを簡略化する「ホワイト国」から韓国を除外する方針を閣議決定した。

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韓国を「ホワイト国」から除外することを決めた閣議の後、記者会見する世耕弘成経済産業相=2019年8月2日、東京・霞が関の経済産業省、伊藤弘毅撮影

 韓国は「明白な経済報復だ」(文在寅(ムンジェイン)大統領)と反発したが、経産相世耕弘成はあくまで韓国の輸出管理不備が原因だとして、元徴用工判決など「何かに対する対抗措置ではない」と強調。だが、世耕自身がツイッターで韓国への措置について元徴用工判決に触れ、「信頼関係が著しく損なわれた」と元徴用工判決が引き金になったことを示唆している。

 米政府もホワイト国外しについて「日韓関係のさらなる悪循環をもたらす」(高官)と警鐘を鳴らし、日韓に自制を求めたが、両国の報復の連鎖で関係悪化は進むばかり。日韓慰安婦合意に動いた国家安全保障局長の谷内正太郎も黙認するしかなかった。谷内周辺は語る。

 「安倍さんは中国には、経済的手段で政治を揺さぶる『政経分離』を説いたが、韓国には経済をテコに報復した。この時期、安倍・谷内の関係悪化で、国家安全保障局は日韓関係を主導できる環境になかった」

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会見で説明する安倍晋三前首相=2020年12月24日午後6時24分、国会内、上田幸一撮影

 韓国は独自の機密情報を互いに融通する「日韓GSOMIA(軍事情報包括保護協定)」の破棄を一時通告。米国による説得などで協定はかろうじて維持されている。防衛省幹部は「小泉政権下でも歴史問題で日韓関係は悪化したが、その対立が防衛協力にまで及ぶことはなかった」と語る。

 関係改善の糸口は今も見えない。「バイデン政権はオバマ同様、日韓関係改善を強く促してくるだろう。そうでないと対北朝鮮、対中国で足並みがそろわない」と外務省幹部は語る。

 歴史的経緯や国内世論を意識し、日韓が応酬する負の連鎖は、アジアの安全保障環境にも影を落とす。(敬称略。肩書は当時)

【第6回】22日午前7時配信予定

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