1.5億円消えた泉佐野市 ベテラン職員が使った抜け穴

茶井祐輝、河野光汰

 介護保険の給付金をだまし取ったとして、大阪府泉佐野市が3月、非常勤職員の女性(60)を懲戒免職にした。死亡した市民の名で申請し、市役所内の窓口で現金を受け取る手口で、2012年度以降だけで被害額は1億5千万円に上るとみられる。ふるさと納税日本一を誇る市の足元で、巨額の公金詐取が見逃され続けていたのはなぜか。

 「勤務態度は極めてまじめ。まさかこんなことをしていたとは」。女性の上司は驚きを隠さない。

 不正は2月に発覚した。それまで市役所の会計課窓口で現金で受け取れた介護保険給付金を、市がすべて口座振り込みに変えたのがきっかけだった。

 市介護保険課が振込先を点検したところ、女性や親族の口座が指定された申請が計4人分見つかった。

 その時点ですでに市の内部での手続きは終わっており、計約105万円が女性側に振り込まれた。女性が現金をだまし取るため、振込先口座を自ら設定したとみられるという。

 女性は1989年に市の非常勤職員になり、毎年契約更新を重ねながら、介護保険課にずっと所属してきた。高齢者が暮らす住宅を改修したり、福祉用具を購入したりした人が給付金を申請した際の事務手続きを2000年ごろからほぼ1人で担っていたという。

 女性は市の調査に「09年ごろに不正を始めた」と説明した。多くの場合、すでに死亡した市民の名で架空申請をしていた。課内決裁を経て、会計課窓口で現金を受け取っていた。

 1件最大数十万円で、記録が残る12年度以降で1217件、計約1億5千万円を詐取したとみられる。女性は「借金返済に充てた」としたが、詳しい使途は明かさなかったという。

 長い間、不正が見逃されてきたのはなぜか。

 本来、市民が介護保険の給付金を受けるには申請書のほか、住宅改修なら理由書、福祉用具を買った場合は領収書など多くの書類を添付し、受け取った市側がシステムに入力する。

 女性は架空申請の際、申請書などは用意せず、自分でシステムに申請データを入力し、課内の決裁に回していた。

 65歳以上の人が亡くなると、過去に納付した介護保険料の還付を受けるため親族らが介護保険課に手続きに来る。女性はそうした手続きの際に死亡した市民の名前を把握し、申請に使っていたとみられる。

 市には申請書などとデータを照合するルールがなく、上司の介護保険課長らは書類が出ていないことさえ気づいていなかった。窓口で給付する場合、申請者に渡すべき支払いの命令書も女性に渡していた。

「住民サービスと言われ信用してしまった」

 女性はこの命令書を持って窓口で給付金を受け取った。「申請者や相続人が介護保険課に来ている。高齢でわざわざこっちに来てもらうのが悪く、代わりに取りに来た」などと説明していた。相続人の証明書類を偽造し、持参することもあったという。

 会計課側が「口座振り込みにしては」と促しても、「(現金手渡しが)介護保険課の方針だ」と強調していたという。会計課の担当者は「代わりに受け取るのは住民サービスと言われ、信用してしまった」と明かす。

 堺市の介護保険担当者は「申請書とデータを照合しないなんてありえない」。大阪市の担当者も「本人や親族以外に給付金を渡すことはない」と話す。

 地方自治に詳しい田村秀・長野県立大教授は「前代未聞でお粗末すぎる」。チェックの甘さに加え、公金を扱う重要な作業を非常勤職員に任せ続けた人事にも問題があると指摘する。

ずさんな公金扱い改善へ

 泉佐野市は3月29日に女性を懲戒免職にした。詐欺容疑で府警に告訴することも検討している。女性は全額を弁済する意思を示しているが、現時点で返還は105万円だけという。

 泉佐野市はふるさと納税で、ギフト券を返礼品に付けるなどの手法で話題を呼び、寄付額が19年度まで3年連続で全国1位になった。19年度は185億円を集めた。一度は国に制度から除外されたが、国を相手に訴訟を起こし、昨年最高裁で勝訴して復帰した。

 介護保険の財源は被保険者の保険料と国、都道府県からの公費のほか、12・5%が市町村税から捻出されている。ふるさと納税が介護保険に直接充当されることはないが、公金のずさんな扱いは市のイメージダウンにつながりそうだ。

 市は今回の問題を受け、千代松大耕(ひろやす)市長の指示で「内部統制推進プロジェクトチーム」を結成した。現金を手渡しするような手続きがあるかを市の全課に問い合わせ、外部の有識者も交えて対応策を検証するとしている。(茶井祐輝、河野光汰)