中途半端な対策は意味ない…死者激増ブラジルからの警告

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サンパウロ=岡田玄
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 ブラジル新型コロナ感染状況は、制御できなくなった福島やチェルノブイリ原子炉と同じ状態だ――。世界的に著名な脳神経学者で医師のミゲル・ニコレリス米デューク大学教授(60)は、母国ブラジルが「世界的な危機」に直面していると警鐘を鳴らす。取るべき対策は何か。科学者と政治家との関係はどうあるべきか。朝日新聞とのオンラインインタビューで語った。

 Miguel Nicolelis ブラジル・サンパウロ出身の医師、脳神経学者。米デューク大医学部教授。脳の信号でロボットを制御する「ブレーン・マシン・インターフェース」研究の第一人者。現在は、拠点を置く米国にブラジルから帰国できず、「サンパウロに閉じ込められている」。

 ――あなたは、BBCやロイター通信などとのインタビューで、現在のブラジルの感染状況を「福島の原発」や「チェルノブイリ」にたとえています。

 私は、ブラジルの現状について「生物学的な福島原発、チェルノブイリ原発」という比喩を使いました。

 ブラジルの新型コロナの状況は、ブラジル一国だけの問題ではなく、制御を失った福島やチェルノブイリの原発のように、世界的な問題なのだということを伝えるメタファーです。パンデミックやウイルスについて理解していない人々に、状況がいかに深刻かを明確に伝えるためです。

 爆発的に増えている症例数、死亡者数を説明する数式が、連鎖反応を起こす原子炉の数式に非常に似ています。文字どおり、指数関数的に増えているのです。

 ブラジルの現状は、非常に危機的で、感染者が急増しているインドよりもさらに心配です。人口あたりの患者数と死亡者数の伸びが大きいからです。

〈ブラジルの感染状況〉ブラジルでは、4月29日までに1459万人の感染が確認され、死者は累計40万人を超えた。昨年11月ごろから第2波が始まり、1月をピークに一度落ち着きかけたが、再び急増し、3月25日には1日あたり10万人超の新規感染者を記録した。現在は変異株が感染の中心とみられ、その後も高い水準での感染が続いている。ブラジルの感染爆発は1国だけの問題ではなく、世界への影響も指摘されてきた。すでに南米諸国ではブラジル発の変異株が確認されており、自国でのさらなる拡大を恐れ、国境を閉鎖した。米国などもブラジル在住者の入国を原則として禁じているほか、フランスも変異株の拡大を防ぐため、ブラジルとの航空便を無期限で停止した。

 ――あるインタビューでは、「ブラジルは回帰不能点(ポイント・オブ・ノーリターン)に達する」とも言っていました。

 ローマ帝国時代のペスト、14、15世紀の欧州、1918年のスペイン風邪など、世界のパンデミックの歴史を見ると、どこでも同じことが起こっていました。

 感染を制御できなくなると、犠牲者の遺体を正しく管理できなくなり、二次的な感染が起こり始めます。そして、社会的、経済的、政治的な観点からも状況に対処しなくなるのです。私は米国のフィラデルフィアに長いこと住んでいましたが、そこでは1918年に路地に遺体が積み上げられていたと言い伝えられていました。

 南半球の最大都市サンパウロは今、歴史上初めて、死者が増えすぎて、葬儀崩壊に近い状態が生まれています。葬儀の崩壊は「回帰不能点」につながるものです。

 ――ブラジルの死者数は、このまま進めば、どうなるのでしょう。

 何もしなければ、6月末まで…

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