第11回炭鉱町の「幽霊病院」を訪ねる バイデン政策に揺れて今

有料記事断層探訪 米国の足元

ウェストバージニア州=青山直篤
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断層探訪 米国の足元 第三部①

 米東部を走るアパラチア山脈は、日本列島を包み込むような広がりを持つ大山系だ。その最奥部を、数日前の大雨で濁ったタグフォーク川が流れていく。渓谷に張り付くように人家が並ぶ。小さな街を一望する高台に、目指す「古い病院(The Old Hospital)」はあった。

 1928年、ウェストバージニア州ウィリアムソンに建てられた建物は、88年以降、病院としては使われていない。壁をツタがはい、窓には板が打ち付けられている。人々は「幽霊が出る」とささやき合い、怪異現象を語り継いできた。

 見上げると、近寄りがたい不気味さと、何か心引かれる美しさがまじり合う。「じゃあ行きましょうか」。案内役のトニヤ・ウェッブ(47)が入り口の鍵を開け、中へと導き入れてくれた。

 薄暗い通路を、ウェッブが光で照らしながら進んでいく。肝試し気分で入った侵入者の落書きが至るところにあり、窓にはいたずらで付けられた手のひらの跡が残る。各階には、殺人犯が飛び降りたという窓や、子どもの笑い声が聞こえるという部屋など、背筋が寒くなる逸話が残る。医療実習用のマネキンや、新生児用の保育器も放置されたまま。同行したウェッブと、市長のチャールズ・ハットフィールド(58)が傍らにいなければ一歩も進めそうにない。

 堅牢なつくりの建物は、かつて多くの患者が訪れたころの町の繁栄をしのばせる。世界の中でもこの地域ほど、一つの産業に命運を託してきた場所は少ない。1890年代、数十人の開拓者から出発した町に、百数十年間、命を吹き込んできたのは、現地で「黒い黄金」と呼ばれた石炭だ。

 炭鉱事故や、石炭を運ぶ鉄道事故で傷ついた人々は、真っ先にこの病院に運ばれた。ウェッブが「お気に入りの場所」として案内してくれたのが、長く病院職員にも立ち入りが禁じられていたという地下の一室だ。古い焼却炉があった。

 「1920~30年代、炭鉱…

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