死刑に賛成?反対? 大阪弁護士会の動画で考える

遠藤隆史 米田優人 聞き手・米田優人 聞き手・遠藤隆史
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 死刑制度に賛成か反対か。2人の弁護士が立場を明らかにして意見を述べる動画を、大阪弁護士会がつくった。事件の被告と接したり被害者支援に取り組んだりする実体験を元にした話を伝え、制度の是非を改めて考えてもらう狙いだ。

 動画は23分。刑事事件の弁護活動を長年続ける後藤貞人弁護士は「死刑制度を運用するのが人間である限り、必ず間違いが紛れ込む」と訴える。他方、被害者支援に15年以上取り組む奥村昌裕弁護士は「被害者の命は戻らないのに、死刑はいらないと言えるでしょうか」と語る。

 同会は2019年、制度の廃止を求める決議を採択した。会員数4624人(当時)に対し、賛成1173票、反対122票、保留・棄権30票。約3300人は意見表明しなかった。内閣府が5年に1度実施する世論調査では「死刑もやむを得ない」と容認する回答が19年の調査まで4回連続で8割を超えた。

 同会の川下清会長は「制度を考える材料にしてほしい」と話す。遠藤隆史、米田優人)

死刑廃止」後藤貞人弁護士に聞く

 死刑は取り返しがつかない。裁判官も検察官も間違う。死刑確定後に再審無罪になった事件は4件だが氷山の一角だと思う。

 殺人を犯した人が全員死刑になるわけではない。最高裁は1983年、死刑の適用指標「永山基準」を示した。被害者数や遺族の処罰感情などを総合的に判断するに過ぎず、基準になっているとはいえない。日本の死刑は絞首刑という残虐な刑。死刑制度はやめなければならない。

 ――家族が殺されても死刑制度反対と言えますか

 私はそう言う。愛する人を殺された人が被告人に「命で償え」と思うのは自然な感情だが、その感情と死刑制度をどうするかは切り分けて考えるべきだ。

 ――死刑をなくす場合、仮釈放のない終身刑の導入を求める声もあります

 毎年、仮釈放される倍以上の人が刑務所で亡くなっている。死刑廃止の一里塚として終身刑も真剣に考える必要はあると考える。

 ――今回の動画を見た人に考えてほしいことは

 まずは「日本の死刑はどないなってるんやろうか」と関心を持っていただきたい。世界には死刑を廃止した国がたくさんあるが凶悪事件は増えていない。「死刑を廃止したらどうなるやろう」と少し想像してもらいたい。(聞き手・米田優人)

ごとう・さだと 1975年弁護士登録。無罪が確定した大阪市平野区の母子殺害事件などを担当した。日本弁護士連合会の死刑弁護プロジェクトチーム座長。

「死刑存続」奥村昌裕弁護士に聞く

 一家の大黒柱を事件で殺された家族は生活が困窮するが公的な経済支援は極めて脆弱(ぜいじゃく)だ。凶悪犯罪が、大事な人の命だけでなく家族の生活も奪う。悲惨な状況に置かれた遺族が極刑を求めるのはやむを得ない。

 少なくとも仮釈放がない終身刑が導入されるなどしない限り、死刑廃止の議論を進めるべきではない。

 ――冤罪(えんざい)で死刑で命を奪えば取り返しがつかない

 冤罪を無くす手段を考えるべきだ。DNA鑑定など科学技術は進歩している。検察官にもっと証拠開示をさせる制度をつくることなど冤罪リスクを回避する方が先だ。

 ――大阪弁護士会は会として死刑反対を決議した

 弁護士でも賛否が割れる問題で、国民の8割は死刑を容認している。大阪弁護士会として一致して「死刑反対」を打ち出すには議論を尽くしていない。犯罪被害者への支援の検討も不十分。決議に今も反対だ。

 ――動画を見た人に何を考えて欲しいですか

おくむら・まさひろ 2005年に弁護士登録。当初から犯罪被害者の支援活動に取り組み、17~19年度は大阪弁護士会の犯罪被害者支援委員会委員長。

 多くの人は死刑について深く考えたことはないと思う。家族や親友が殺人事件の犠牲になれば、あるいは殺人事件を起こして死刑になったら。賛否を決める前に被害者、加害者両方の視点から改めて考えてほしい。(聞き手・遠藤隆史

国内外の死刑の現状は

 死刑制度をめぐって最高裁の判断は「合憲」だ。1948年、「冷厳な刑罰だが、憲法36条が禁じる残虐な刑罰には当たらない」とした。法務省によると、2000年以降、今年2月までに191人の死刑判決が確定、94人に執行された。

 世界的には死刑制度がある国は少ない。国際人権団体「アムネスティ・インターナショナル」の統計では、19年までに廃止した国は106カ国、10年以上執行がないなど事実上廃止した国を加えると142カ国。国連に加盟する196カ国の約7割に上る。

 日本では、日本弁護士連合会が16年に死刑廃止を求める宣言を採択。都道府県単位でも、これまでに札幌や埼玉、大阪、福岡など10以上の弁護士会が決議を採択した。一方、兵庫県弁護士会では昨年11月、「賛否が分かれる」として常議員会で決議案が否決されるなど弁護士の意見も割れる。

 法務省は2012年に死刑のあり方に関する報告書をまとめたが賛成反対の意見を整理するにとどめた。遠藤隆史

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