娘の名託した「アイリンブルー」 花が伝える津波の教訓

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川口敦子
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 5月になると、桜美林大学東京都町田市)の花壇でフランスギクがかれんで白い花を咲かす。学生たちは花を「アイリンブルー」と呼んでいる。10年前の東日本大震災で亡くなった女児を弔い、防災への意識を忘れないでほしいと母親と学生らが始めた。被災地での出会いから始まった交流は、今も続いている。

 「アイリンブルー」の由来は宮城県石巻市の佐藤愛梨(あいり)ちゃん(当時6)。水色が好きだったため、母の美香さん(46)が付けた。

 愛梨ちゃんは市内の私立日和幼稚園に通っていた。地震直後、防災無線大津波警報を告げる中、高台の園からバスに乗せられた。向かった先はなぜか海辺の住宅街。バスは津波にのまれ、炎に包まれた。

 バスには園児12人が乗っており、順に下りたが、山側に住む5人が亡くなった。なぜバスを使ったのか。園にいれば救えた命なのに――。真相解明を求め、遺族は訴訟を起こした。バスを出した理由を知りたかったが、園側は「覚えていない」を繰り返した。一審で認めた園の法的責任は控訴審の和解でも維持されたが、バス移動の理由は、最後まで語られることはなかった。

 和解後の2015年5月、美香さんが愛梨ちゃんの亡くなった場所を訪ねると、一帯に白い花をつけたフランスギクが咲いていた。「震災は防げない。でも訓練を繰り返すことで、守れる命はある。娘の名を付けた花が広まれば、防災を真剣に考える人が増えるかもしれない」。一輪の花を摘んで増やし、講演の場などで栽培を広げる活動を始めた。

 桜美林大学大学院2年の横溝南都海(なつみ)さん(24)が美香さんに会いに来たのはその頃だ。

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 震災当時、静岡県の中学2年…

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