男子が講師に「差別」 女子選手が気づいた日本との差

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編集委員・潮智史
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 女子サッカー選手の大滝麻未(あみ)は2年前、女子サッカーの選手仲間に呼びかけて一般社団法人「なでしこケア」を設立した。女子サッカーや女性アスリートの価値や地位の向上を目指し、ほかの選手と共にハラスメント問題など社会の課題について考える活動をしている。

 感じてきたのは、自身を含め、問題意識を持たないことや行動に移せないことを変える難しさだ。

 「問題意識を持つ人は集まってくるし、どう行動を起こすかという発想になる。持たない人への働きかけには時間がかかるし、どう向き合っていくかは難しい。自分や競技の将来への考えや思いはあるけど、悩んでいても行動に移せない人が多いことが気になる。サッカー選手の発言なんて、と自分の価値を過小評価する人が多い。まずはそこから変えていきたい」

 国際サッカー連盟(FIFA)が運営し、スポーツの経営や法律を学ぶ修士課程「FIFAマスター」で学んだ。そこで強烈な体験をし、発信する大切さと同時にその難しさも知った。

 「FIFAマスターでは意見を求められる日々だった。ある講義で講師が女性差別的な発言をして、その場で男子学生が指摘したことがあった。私も、その指摘で初めて差別的だったことに気づかされて、発言力とリテラシーの違いを思い知った。日本では、知識もないし、発信できない、というブレーキを感じる。変なことをいって炎上するかもしれないと。私自身も思ったことを全部言っていいのかと、慎重に考えてしまうところは変わっていない」

 フランスでのプレーや欧州生活でも、発信力の違いを痛感してきた。

 「欧州では、選手が引退後になにをやりたいかを考えてプレーしている。勉強したり、興味ある仕事をしてキャリアを築いたり。選手として発信力があるうちにビジネスを始める人も存在する。アスリートとしてなにをすべきかを考えている。リスペクトをもって注目されるから、責任を果たさないといけない。日本と大きく違うのは自身の価値をよく理解している点」

 それらの体験に突き動かされ、自身を含め、日本の女子選手の内側を変えることに力を注ぎ続けている。

 「女子サッカーは2011年に女子W杯で優勝して、12年ロンドン五輪で銀メダル獲得したけど、なぜブームで終わってしまうのかを考えてきた。本気で女子サッカーを変えたい人が組織の上に立たないと変わらない、自分で行動を起こさないと変わらないという問題意識があった。社会を変えるために、まず女子スポーツと選手の価値や地位を向上させようと考えた。日本では特に、社会を変化させるには女性自身が変わらないといけない部分が強いと感じます」

 9月には国内初の女子プロリーグが始まる。ブームで終わらせないという使命感は強い。

 「女子サッカーにしかない価値がある。自分らしく輝くことを体現し、女性を勇気づける力がある。それも選手がプロとして自立して、発信していかないと外には伝わらない。選手側の意識改革を進めていくつもり。プロ化でどう変わるのか注視している」

 森喜朗前会長発言に始まった東京五輪パラリンピック組織委員会の一連の問題はどう映ったのか。

 「表にやっと出てきたかという印象。あの発言も、それを周囲が容認してきたことにも驚きはない。社会が変わるきっかけになってほしい。ただ、後任や理事に女性を、という考え方には違和感もある。性別、年齢に関係なく、適切な人が適切なタイミングで就くことが当たり前になればいい」

 なでしこケアの活動は始まったばかりだ。背伸びはせず、現実的な目線で未来を見ている。

 「まず女子選手に働きかけて行動を起こしていく。全体の意識を底上げする。影響力のある1人の発言も重要だけど、全体で発信することも大事。それがめざすべきひとつの姿。そこから、ほかの競技の選手を巻き込む機会をつくり、一般社会の女性への働きかけをしていくことにつながっていく」(編集委員・潮智史

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