心まで汚染されてたまるか 福島の魚復活へ、苦闘の先は

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古庄暢 栗田優美 編集委員・長沢美津子
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 10年前の東京電力福島第一原発事故で、私たちが食べるものの安全は、目に見えない不安に脅かされました。生産や流通の現場は、どうやって安心を取り戻そうとしてきたのでしょうか。「常磐もの」と呼ばれる福島の魚を巡る現場を取材しました。

 2月上旬、福島県いわき市の沼之内漁港。午前8時半を過ぎると、県内や地元の仲買業者で港が活気づいてくる。

 ヒラメ、タラ、アンコウ……数十種の魚はすべて、その朝に福島沖でとれたもの。北からの親潮と南からの黒潮が交わり、年間を通じて200種以上が水揚げされる福島沖の魚は「常磐もの」として名声を得てきた。

 だが10年前、沼之内の北約45キロにある福島第一原発の事故がその恵みを奪った。

8年余り続く「試験」

 沿岸漁業は自粛を余儀なくされ、2012年6月に部分的に再開した後も、国の放射性セシウムの基準(食品1キロあたり100ベクレル)に従い、計43魚種44品目が国の出荷制限を受けた。県内の漁協はこの8年余り、市場評価などを確かめるための「試験操業」に徹し、年間水揚げ量は震災前の17%、水揚げ金額も22%(20年速報値)にとどまる。

 厳しい制約の中で、少しずつ信頼回復を進めてきた。

 福島県は事故の年に海産物の放射線量を調べるモニタリング調査を始め、今も月に200~300検体を調べている。制限解除には1年以上、長いものは7年かかったものもあった。

 県漁業協同組合連合会も20台近い検査機器を2カ所の市場に置き、スクリーニング検査を続ける。25ベクレルを超えたものは精密検査し、50ベクレルを超えたものは結果を公表して出荷しないとする独自基準も設けた。2月には約2年ぶりに国の基準を超えるクロソイが見つかり、すぐに公表。すべての港でクロソイを出荷停止にした。

 県漁連の野崎哲会長は「線量が高い特異な海産物が今も見つかることがあるが、透明性を一番大事にしたい」と話す。

 昨年2月時点で国の出荷制限がすべて解除されたことなどから、県漁連はこの3月末で試験操業を終え、段階的に操業の日数や海域の規制を緩めようとしている。

 安全への努力は実を結びつつあるが、元通りの安心が戻ったわけではない。いわき市の男性漁師(39)は、廃炉作業で問題が起きるたびに「福島産は大丈夫かと不安の目を向けられている気がする」と言う。そして「何度、漁業者が取り戻してきた信頼が壊されるのか」と憤るのが、原発の汚染水の問題だ。

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