第2回新たな命に亡き夫の面影 生きる、色あせぬ思い出と共に

有料記事うつりゆく記憶 東日本大震災10年

盛岡総局・緒方雄大
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 岩手県陸前高田市の菅野(かんの)佳代子さん(60)が夫の誠さんと出会ったのは、中学生のときだった。

 13歳の誕生日、キラキラ光るガラス玉にチェーンがついたネックレスをもらった。学校では口をきかず、家で親の目を盗んで長電話をした。高校を卒業して初めてのデートは映画。よくドライブにも行った。

特集「海からみた被災地」

 東日本大震災による津波は、陸地だけでなく海の中にも大きな被害をもたらした。大量のがれき、失われた漁場……。豊かな海はこの10年でどう変わったのか。水深35メートルまで潜ってみた。

 23歳で結婚し、3人の子に恵まれた。誠さんは市役所で働き、佳代子さんは福祉の仕事をした。

 2011年3月3日。「お母さん、ケーキ買ってきたから食べるべし(食べよう)」。夜中に2人で食べた。

 3月10日。「お母さん、韓流ドラマ見るべし」。疲れていたから断った。

 夫はよくしゃべる人。仲のよさが自慢だった。

 《東日本大震災による陸前高田市の死者・行方不明者は1761人。津波による家屋の被害は市内の半数にあたる4065世帯にのぼった》

 3月16日。市内の体育館で黒い袋に包まれ、横たわる夫と対面した。避難誘導中に津波に巻き込まれたと聞かされた。50歳だった。

 「なんでここにいるの」。夫のほおをたたく。あごに小さい傷があるだけで、まるで寝ているように見える。「なんで置いていくの」。泣き続けた。

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 夫が身につけていた指輪を外…

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